PW2000を画期的に進化させた高性能コアエンジン
・B757-300用として1995年に開発されたPW2000シリーズの派生型 PW2043エンジン。
初期のPW2037を大幅にアップグレードしたPW2043は、単純なソフト変更による推力増強ではなくファン動翼の形状変更、コアフローの増加、高圧タービン動翼の材質やデザイン変更などが行われた。
この改良されたエンジンは、燃費効率だけでなくメンテナンスコストを約22%と大幅に下げることに成功。既存のPW2037(2037D)/2040(2040D)、F117-PW-100にもアップグレードキットとして採用されている。
当初は757-300用の派生型エンジンだったが、その後はほとんどの757-200/-300/757PF、Il-96M、C-17のエンジンコアとなっている。
Motohide Miwa from USA, CC BY 2.0,
PW2043 高圧タービンブレード 1段目
BOEING 757-300
Pratt and Whitney PW2043
High Pressure Turbine Blade Stg1 (HPT1)
- エンジン型式:P&W PW2043
- 開発年:1995年~
- 材質:ニッケル基耐熱超合金 PWA1484
- 結晶構造:単結晶(SC材)
- 冷却方式:コンベクション+インピンジメント+フィルム
- 搭載機種:ボーイング B757-200/-300/PF、Il-96M、C-17
・P&Wは既存のJT8DとJT9Dの推力の隙間を埋めるため、1971年にJT10D(推力40,000 lbfクラス)の開発に着手。1981年、JT10DはPW2000に命名変更され初運転を行った。後に、B757-200のパワープラントとして採用された。
PW2000は、当時最新の単結晶材による高圧タービンや3次元空力設計による圧縮機、燃料制御にFADECを搭載するなど、推力40,000ポンド級では世界で最も燃費の良いエンジンとされていたが、初期のPW2000はコアの耐久性に若干の問題もあった。
PW2037/2040用として耐久性向上パッケージなど様々な改良が行われたが、1995年にラインナップされた派生型のPW2043では大幅なアップグレードが行われた。
ファン動翼の形状変更も含まれるが、改良はエンジンコアを中心に行われた。その中でも耐久性の要となる高圧タービン動翼の材質をPWA1480から最新のPWA1484に変更。新しい遮熱コーティング(TBC)は、高温の燃焼ガスの熱がブレード母材へ伝わるのを最大167℃下げることが可能。他にもフィルム冷却の孔配列変更や追加が行われた。
また、低圧圧縮機の動翼形状が再設計されたことでコアへ流れるエアフローが従来よりも8%増加。流量増加に伴い、燃焼室出口でのガス温度は約44℃下がった。エンジンスペックで示されるEGT(排気温度測定箇所)の値はPW2043の方が2037(旧タイプ)と比べて10℃高い値となっているが、高圧タービン動翼に吹き付けられるガス温度は28℃程度低くなっている。これらの改良によって高圧タービン動翼の寿命は劇的に改善され、エンジン全体でのメンテナンスコストを約22%と大きく下げることに成功した。
この改良されたエンジンコアはPW2043だけでなく、その後のPW2037(2037D)/2040(2040D)、F117-PW-100にも採用されている。
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タービンブレードの画像
1985年頃に使われていたブレードと比較すると、見た目の形状だけでなく材質や翼面冷却の強化・セラミック遮熱コーティング(TBC)など耐久性改善のために大幅な改良が加えられている。
・推力40,000 lbfクラスのブレードだが、PW4000-94(4056・4060)やPW4000-112(4084・4090)など、50,000~90,000 lbfクラスと類似している箇所は多い。
・前縁のフィルム冷却孔は砂塵の影響を強く受ける運用環境でも目詰まりしにくい形状に変更された。
砂漠地帯や砂塵の多い地域では、その微粒子が0.5㎜以下という極小のフィルム冷却孔に堆積し詰まらせる場合がある。冷却不良が起こればブレード破断につながることから、単純な丸孔ではなく目詰まりしにくい孔形状が採用されている。
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