JAL(日本航空)やANA(全日空)では機内Wi-Fi接続が無料で提供されていますが、地上との接続に使う人工衛星がそれぞれ違うということをご存知ですか?
今回はそんなマニアックな話を紹介したいと思います。暇つぶしに最適な内容となっているので、忙しい方は目次だけでも意味がわかるようにしています。
機内Wi-Fiの接続が『離陸の後 5分後~着陸5分前まで』なのはなぜでしょう?
もくじ
飛行中の機内でインターネットができる仕組み
・そもそも、なぜ高度10,000m・時速800km/hで飛行する機内の中から、スマホでインターネットができるのか?
高速で移動する飛行機の機内では、一般的な携帯の電波だと基地局とうまく接続できず圏外となります。機内Wi-Fiが携帯各社の4Gや3G回線に接続しているわけではありません。
では、どのような仕組みなのかというと、人工衛星を経由して地上のサービスプロバイダーに接続することでインターネット環境を乗客に提供しています。
※JAL、ANAともに全ての機材でWi-Fiサービスを提供しているわけではありません。事前に搭乗予定の飛行機がWi-Fi対応なのか確認することをおすすめします。
人工衛星の種類とは?
・人工衛星は目的に応じて様々なタイプが運用されています。運用する高度によって低軌道衛星(地球から高度2,000km以下)中軌道衛星(高度2000kmから36000km未満)静止衛星(高度36,000km)と大きく3つに分けられます。
低軌道衛星
・地球表面から高度2,000km以下を周回する人工衛星。
低軌道のメリットは、小型のロケットでも打ち上げが可能、地表との距離が低いので解像度の高い画像撮影や精密なリモートセンシングができる。通信の場合は送信電力が小さくできるので端末を小型化できる。
地球1周を約1.5時間(90分)で周回する。
通信の場合、地球全域をカバーするには多くの衛星を軌道上に投入する必要がある。例えばイリジウム携帯の場合、約66基が打ち上げられている。
他にも、気象衛星NOAA、ハッブル宇宙望遠鏡、イリジウム携帯、偵察衛星、国際宇宙ステーション(ISS)など。
中軌道衛星
・地球1周を約12時間で周回する軌道の人工衛星。地球全体をカバーするのに必要な衛星の数が、低軌道衛星に比べて少ないというメリットがある。例えば中軌道上にあるGPS衛星は24基で地球全体をカバーできる。
地表からの高度が高いため、リモートセンシングや画像撮影には不向きとされている。
静止衛星
・地球の自転と同じ24時間で1周する軌道にある人工衛星。地球から見た場合に常に静止しているように見えることから静止衛星と呼ばれている。気象衛星『ひまわり』など常に同じ場所の状態を観測するのに適している。他にBS/CS放送などにも使われている。
ただし、軌道高度が地表から36,000kmと遠いため電波の送信出力を大きくする必要があり、他にも伝送の遅延や高分解能な地上撮影は難しいとされている。また、静止軌道は有限な資源といわれおり他国と競合する場合には調整が必要で、打ち上げ費用も高い。
※衛星軌道に関する内容はごく初歩的な解説なので、詳しく知りたい方はWikiなどを参考にするとよいかと思います。
スカパーと機内Wi-Fiの関係
・衛星放送のスカパーと機内Wi-Fi、一体何が関係あるのか?
実は、飛行機が地上と通信するために経由する人工衛星が、あのスカイパーフェクTVで有名なスカパーJSAT株式会社が運用している衛星なのです。
JAL:JCSAT-5A 衛星
・JAL 国内線は、サービスプロバイダーとしてGogo社を利用しています。そのGogo社は、スカパーJSAT株式会社が運用している通信衛星『JCSAT-5A』を利用して航空機とのネットワークを構築しています。
JCSAT-5Aは、東経132度の静止軌道上(高度約36,000km)にある通信衛星。41本のトランスポンダーを持ち複数のサービスを提供している。航空用だけではなく、NTTドコモの船舶公衆電話などサテライトフォンにも使用されています。(ドコモでは N-STAR d号機とも呼ばれている)
JAL SKY Wi-Fi | |
サービスプロバイダー | アメリカ Gogo社 |
サービス名 | Gogoinflight |
通信衛星 | JCSAT-5A (N-STAR d) |
トランスポンダー周波数帯 | Kuバンド |
軌道位置 | 東経132度 静止軌道上 |
ANA:スーパーバードC2 衛星
・ANA 国内線は、サービスプロバイダーとしてパナソニック アビオニクス社の『eXConnect』を利用しています。そのeXConnectは、スカパーJSAT株式会社が運用している通信衛星『スーパーバードC2』を利用して航空機とのネットワークを構築しています。
スーパーバードC2は、東経144度の静止軌道上(高度約36,000km)にある通信衛星。28本のトランスポンダーを持ち複数のサービスを提供している。航空用だけではなく、防衛省・自衛隊・地方公共用の通信、テレビ、ラジオ放送にも使われています。
ANA Wi-Fi Service | |
サービスプロバイダー | パナソニック アビオニクス社 |
サービス名 | eXConnect |
通信衛星 | スーパーバードC2 |
トランスポンダー周波数帯 | Kuバンド |
軌道位置 | 東経144度 静止軌道上 |
航空機の衛星アンテナは高度な制御をしている
・例えば、バスや車に乗り『太陽や月』といった一つの目標物を見続けることはできますか?
想像しただけでも結構難しそうな気がしますが、これが飛行機ならどうでしょう。3次元の動きに加えて高速で移動するとなると、何度も見失ったり探すのに手間取ったりと困難なチャレンジです。
このような、ある一点を見続けるということを飛行機の屋根の上にある衛星アンテナは行っています。
静止衛星の電波を受信するには、方角と迎角(水平面に対しての角度)をキッチリ合わせなければ受信できません。BS/CS放送の場合、北海道だと方位220度 迎角30度、沖縄だと方位216度 迎角53度と大きく変化します。この角度がずれると急激に減衰し映像が映らなくなります。
機内Wi-Fi(インターネット接続)の場合、衛星からの電波を受信するだけでなく、航空機側からも送信する必要があるのでかなり厳密に衛星の位置に合わせる必要があります。それも3次元で高速飛行している機体から。
飛行機の屋根にある衛星アンテナのカバーの中には、方位角と迎角を自動的に合わせる装置も搭載されています。
なぜ接続は離陸後5分~着陸5分前までなのか?
JAL 公式サイト機内WiFiについてからお借りしました
・なぜ機内Wi-Fi接続は【離陸の後 5分後~着陸の5分前】までなのか?
離着陸時の安全上の理由もありますが、離着陸時は頻繁に旋回したり姿勢が大きく変化するため、衛星との接続が安定しにくいというのが理由のようです。
他にも、Kuバンドという10GHz帯の電波は、雨などの水の影響を受けて急激に減衰しやすい性質があります。
そのため、通常は高度10,000ft(約3,000m以上)から利用できるようになっています。しかし、JAL 国内線の場合はサービス時間を長くするために高度3,000ft(約900m以上)から利用できるよう改良されています。
まとめ:いつものネットを衛星通信で見るという贅沢感
・当たり前のように機内Wi-Fiサービスを利用して無料インターネット接続していると、地上でスマホを見ているような気分で特別な感じはしません。
もし、今、機内のWiFiでこのページを見ているなら、いつものYahooやツイッターを開いてみてください。
あなたが画面をタップした瞬間、そのリクエストは機体の背中にあるアンテナから送信され、はるか彼方の高度36,000kmにある静止衛星に送られ、地上のプロバイダーに向けて再送信される。そして、プロバイダーはリクエストされた情報を静止衛星に向けて送信、衛星は受け取ったデータを飛行中の航空機へ向けて再送信、そしてスマホに表示された画面がそれ。
1タップのリクエストが往復するのにかかる距離は144,000km、地球3周以上の旅をして手元の画面に到着します。
何となくいつもの“Yahoo” や “いいね!”が新鮮に感じませんか?
最後にもう一度、内容をまとめると
・機内Wi-Fiは
静止衛星を経由して地上と通信している。動画などの大容量データや音声通信は利用不可。(最近、JAL便でYoutubeが見れたことは内緒にしておこう・・・たまたま回線状態がよかったのかと思います)笑
・静止衛星 (スカパーJSAT株式会社)
JALはJCSAT-5A(東経132度 静止軌道)、Gogo社 gogoinflight
ANAはスーパーバードC2(東経144度 静止軌道)、パナソニック eXConnect
・機内Wi-Fiが利用できる時間
離陸後 5分後~着陸5分前、通常は高度10,000ft以上、JALは3,000ft以上から利用可能。
人工衛星を経由してたんだぁ~知らなかった。⤴️⤴️ね( ^-^)ノ∠※。.:*:・’°☆