バードストライクするとファンブレードはどうなるのか?
チタン合金とCFRPでは損傷が違うのか?
1枚あたりの被害額は?
飛行機と鳥が衝突する『バードストライク』は、日本国内だけでも年間1,400件以上(2018年)発生している。
その主な衝突箇所は機首付近や胴体・翼・エンジンなど様々だが、その内の15.4%がエンジンに吸い込まれている。
(国土交通省:2018年バードストライクデータより)
もくじ
大型ターボファンエンジン 3つの事例
スナバ―付きファンブレード:チタン合金
B747-400:CF6-80C2 スナバ―付ファンブレード
・一昔前の大型ターボファンエンジンでは、ブレードが細長で振動防止のためスナバ―と呼ばれる突起があった。
ブレードの中間辺りにこの突起を設けることで、隣り合ったブレード同士を支えるリング構造を形成。全体の剛性が高まり振動を防止していた。
初期のジェット機時代(DC-8・B727)から~ワイドボディー機(B747・B767)まで、多くのターボファンエンジンに採用されている。
『軽くて・強く・錆びにくい』という特徴を持つチタン合金。バードストライクなど異物突入により大きく変形はするが、破断しにくいという強靭な素材が使用されている。
B747-400:バードストライクによって変形したCF6-80C2エンジンのファンブレード
・通常飛行における異物突入などで発生する小さな変形は修理可能な場合もあるが、鳥衝突がスナバ―付近や根本部分などクリティカルエリアと呼ばれる場所で発生した場合は、少しの傷や変形でも修理不可となり即廃棄される場合も多い。
1枚当たりの価格が120万円~250万円前後と高額なブレードは、数枚損傷するだけで被害額は相当なものになる。
ワイドコード ファン:チタン合金
B737-800:CFM56-7B ワイドコード・ファンブレード
・従来のスナバ―付ファンブレードは翼面に突起物があることで、高速回転時に数パーセントの空力損失・騒音・整備コスト(ファンブレード枚数 36~44枚)などの問題があった。
その改善策としてブレードを幅広(ワイドコード化)にする方法が開発された。
ワイドコード・ファンブレードにすることで、全体の剛性が増し振動を抑えることが可能となり従来のスナバ―が不要となった。結果的に空力改善・騒音低減・ブレードの枚数が半減(20~24枚程度)した。
ファンブレードのワイドコード化は現代の旅客機では主流となり、B737NG(CFM56-7B)・B777(PW4000シリーズ)・B787・A350 (Trentシリーズ)など数多くの低燃費エンジンに採用されている。
B737-800:バードストライクにより変形したワイドコード・ファン(CFM56-7B)
・ワイドコード・ファンブレードは、空力改善・騒音・ブレード枚数の低減など様々な長所があるが、1枚当たりの価格が高いという欠点もある。
B737クラスのエンジンで価格は1枚当たり450万円前後、B777で約600~800万円、A350では約2,000万円といわれるほど高額、バードストライクによる被害額は従来のファンよりも大きい。
CFRP製 ワイドコード ファン
B777-200ER:GE90-94B CFRP製 ファンブレード
・ファンを大型化し高バイパス化する方法は燃費改善の主な手段ではあるが、ファンブレード1枚あたりの重量が増加してしまうと結果的にエンジンが重くなり、燃費改善分が相殺される場合もある。
その対策として一部のメーカーのファンブレードでは、これまでのチタン合金から軽量で頑丈なカーボンファイバー(炭素繊維複合材)に素材を切り替えることで大幅な軽量化に成功しているエンジンもある。
身近な旅客機だと、B787シリーズ・B777-200ER/-300ERに搭載されているGE90やGEnx・LEAPエンジンなどがある。
一方、バードストライクによるブレード損傷は従来の金属製とは違ったタイプとなり、欠陥の探知方法や修理に特別な技術を要するものとなった。
B777-200ER(GE90-94B):バードストライクにより損傷したファンブレード前縁部
カーボン積層の損傷が大きい後縁部(GE90-94B)
・従来の金属ブレードと若干変わったのが、CFRP製ブレードは前縁に貼り付けられているチタン板の補強材には損傷や変形が少なくなったということ。
しかし、前縁部や翼表面に損傷が見られなくても内部の炭素繊維が割れたり剥離している場合がある。また、後縁付近のダメージが大きくなる傾向も見られる。
※チタン合金による補強は前縁だけでなく、先端や後縁でもチタン板によるサンドイッチ構造となっている。
大口径化する近代のCFRP製ファンブレード、エンジンの種類にもよるが価格は1枚当たり1,000万~1,500万に達するブレードもある。一瞬の鳥吸い込みによる損害はかなり大きい。
バードストライクに関するデータ
バードストライクによる損傷部位
・鳥衝突はエンジン吸い込みだけでなく、機体の様々な箇所で発生します。国土交通省 2018年のデータを基にどのような部位に多く発生しているのかまとめました。
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鳥衝突部位 | 衝突件数 | 割合 |
ノーズ付近(窓・レドーム) | 499件 | 32.7% |
胴体 | 145件 | 9.5% |
翼 | 335件 | 21.9% |
エンジン | 235件 | 15.4% |
ランディングギア | 108件 | 7.1% |
その他/不明 | 205件 | 13.4% |
合計 | 1527件 | 100.0% |
※複数に衝突した箇所は数値が重複しています。
※国土交通省 2018年 バードストライクデータより
バードストライク時の飛行状態
・鳥衝突は飛行状態のどの場面で多く発生しているのか。飛行区分や件数・割合をまとめみると、離着陸滑走時と着陸進入時で全体の68.2%を占めていました。
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飛行区分 | 衝突件数 | 割合 |
駐機時/地上走行 | 12件 | 0.8% |
離陸滑走 | 330件 | 23.0% |
上昇中 | 86件 | 6.0% |
巡航中 | 7件 | 0.5% |
降下中 | 22件 | 1.5% |
進入中 | 286件 | 19.9% |
着陸滑走 | 363件 | 23.0% |
不明 | 328件 | 22.9% |
合計 | 1434件 | 100.0% |
※国土交通省 2018年 バードストライクデータより
CFRPブレードの損害額えぐいな。損傷探知も超音波診断なので面倒という話を知り合いがいっていた。
鳥も好きで衝突するわけではなくエアラインも被害額が大きい。互いに難しい問題ですな。共存といううまい方法はないものか。