空冷タービン翼を装備した最初のソビエト製エンジン
Soloviev D-30(現 Aviadvigatel PS-30 )は、1960年初頭に短中距離旅客機 ツポレフ Tu-134のために開発された2軸式 低バイパスターボファンエンジン(正式にはバイパス・ターボジェットと呼ばれている。)
当時、ソ連製エンジンの中では最も信頼性と汎用性に優れたコアは、旅客機(Tu-134,Tu-154,IL-62)から輸送機(Il-76)・戦闘機(MiG-31)まで様々な派生型エンジンを生み出した。
今回は、1971年に開発されたTU-154M、Il-62M用のD-30KUエンジンの高圧タービン翼 1段目を紹介します。
Tim Rees (GFDL 1.2 or GFDL 1.2), via Wikimedia Commons
Soloviev D-30 タービンブレード 1段目
Tu-154M / Il-62M
Soloviev
D-30KU / D-30KU-154
Turbine Blade Stg1
- エンジン型式:Soloviev D-30(現 Aviadvigatel PS-30)
- 初運転:1963年~
- 材質:ニッケル基耐熱合金 ZhS6U
- コーティング:不明
- 結晶構造:普通鋳造(CC)または 一方向凝固(DS)
- 冷却方式:コンベクション
- 搭載機種:Tu-134,Tu-154,IL-62,IL-76,MiG-31
・ソロヴィヨーフD-30は、ツポレフTu-134用(推力15,000 lbf級)のエンジンとしてSeries-Ⅰ(1966年)、Series-Ⅱ(1969年)、Series-Ⅲ(1980年)が運用開始した。
改良ごとに耐久性が向上。Ⅰシリーズは約 3,000hr(1,800サイクル)で寿命を迎えたが、Ⅲシリーズでは最大推力を変えることなくタービン入口温度を30℃下げることに成功。約4,500hr(2,700サイクル)の寿命となった。
また基本型のD-30(シリーズ Ⅰ~Ⅲ)とは別に、推力を25,000 lbf級まで増強した派生型(D-30KU/KP)が1971年に開発された。
D-30KU / D-30KPと呼ばれるこの2種は、長距離用のIl-62M・中距離用 Tu-154M、輸送機Il-76(D-30KP)に搭載された。
D-30KUも当初のシリーズⅠは、タービン入口温度(TET)1,112℃で運用に入ったが、D-30KU-シリーズⅡでは最大推力は変わらずTETを29℃下げ1,083℃となったことで、寿命は3,000hrから最大18,000hr(3,800サイクル)まで向上した。
軍用のD-30F6は、名称はD-30ながら最大推力はドライ時 20,944lbf(A/B 34,215lbf)、高圧タービンの形状は若干変更され、TETも1,367℃となり全くの別物エンジンとなった。
D-30 タービンブレードの画像
・D-30 エンジンは2段式の高圧タービンで11段の高圧圧縮機を駆動する。最大出力時 10,460rpm(96% N2)、タービン動翼初段は最大1,112℃の燃焼ガスを受ける。
・初期のD-30 Series-Ⅰ(1966)からD-30KP Series-Ⅱ(1978)になると、燃費は0.786 lb/h/lbから0.700 lb/h/lbと約12%削減となった。
・最大出力時(D-30KP154Ⅲ)、80.3kg/s(176.8lb/s)の空気がコアエンジンへ吸い込まれる。
高圧圧縮機によって圧力を高められた空気は、最終的に燃焼室手前で全体圧力比が19.2に達する。
D-30のコアが1秒間に処理する空気流量は、JT8D-200と同程度の近い値となっている。
・翼内空冷回路は単純な空洞ではなく、円柱状のペデスタルが前縁から後縁にかけて規則的に配置されている。
翼内壁にペデスタルを多数設ける目的は、冷却空気を限られた通路内でできるだけ擾乱させることで伝熱効果を高め冷却効率を上げると同時に、円柱の柱が補強材となり翼の強度保持にも利用できることからこの手法が採用されている。
見かけは旧世代の古さを感じる形状だが、空冷回路は目詰まりしにくく、単純なコンベクション冷却よりも冷却空気の使用量を抑える構造となっている。
スキーラ付きタービン動翼
動翼先端部の片側に隆起した縁形状は「スキーラ」またはチップドスキーラ(Chipped Squealer)と呼ばれている。
【スキーラチップの目的】
- ケーシング内壁と動翼先端の磨耗を軽減
- ケーシングと接する面積が小さくなることで、摺動(ラビング)による発熱が低減され、チップ部の過熱による損傷を防止。
- ケーシング内壁と動翼先端が接した際、異物によって翼先端に詰まりが生じると適切な空冷ができなくなるが、スキーラ付きの場合は片側だけの損耗となるため詰まりが生じにくい。
スキーラ付きタービン動翼にはこのような利点があり、D-30の場合は空冷回路の構造上、先端部に詰まりが生じると安定運転が妨げられることから、③が特に重要な目的となっている。
しかし、スキーラ付きタービン動翼には欠点もある。
動翼先端部の正圧側(腹側)と負圧側(背側)をさえぎる壁の厚みが薄くなるため、正圧側から負圧側に漏れる燃焼ガスの量が増加することから、タービン効率が低下するという問題もある。
それでもメリットが大きいスキーラ付きタービン動翼は、現代においても形を変えて様々なエンジンで使われている。
先端部の断面が【凹】形状となっているタービンブレード
一部の民間・軍用の高圧タービン(HPT)では、先端が【凹】形状となっている。このような形状は、GEやCFM系で採用されていることが多い。
また、進化型の軍用エンジンの中には、先端断面が凹型ではなく【T】のように伸びた「 Winglet Tip 」と呼ばれる特殊形状が採用されている例もある。
Solovei777, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
・今から60年前に設計された ソロヴィヨーフD-30 エンジン。
開発期間はわずか3年と驚くほど短期間で完成。汎用性に優れ、軍民ともに対応できる豊富なバリエーション。
ソビエト製エンジンでは初となるタービン動翼の内部空冷機構*の採用によって耐久性が向上。当時、ソ連製エンジンの中では最も信頼性の高いD-30は、国家賞を受賞したとされている。
*空冷タービン翼を使用した最初のソ連製エンジン(wiki)