ボーイング 737-800型機(170人乗り)と F-15 戦闘機、大きさも役目も全く違う飛行機だが、意外にもエンジンの推力はどちらも20トン。
では、なぜ民間機は静かで燃費が良く、戦闘機は燃費が悪くうるさいのか?
実は推力は同じでも、排気速度に違いがある。
推進力のメカニズム
US Air Force from USA, Public domain, via Wikimedia Commons
ジェットエンジンは、排気ガスを高速で噴射する反動によって前進する推力を得ています。
その反動力は、1秒間に噴射する排気ガスの質量と速度の積に比例する。
もし、同じ推力を得たい場合、排気する質量を大きくしても、速度を大きくしても積が同じなら推力は同じとなります。
数字で表すと理解しやすい
高速排気によりバリバリと空気が割れるような轟音を発する J79 ターボジェットエンジン。
1秒間に噴射する排気ガスの質量と速度の積に比例する推力。
この説明は、ターボジェットとターボファンによって【100】の反動力を得たい場合を考えると理解しやすくなります。
・ターボジェット:質量10 ✖ 速度10=100
・ターボファン:質量20 ✖ 速度5=100
反動力(積)はどちらも100を得ることができます。
しかし、消費するエネルギーは質量と速度の2乗の積に比例するためこのようになります。
・ターボジェット:質量10 ✖ 速度 (10^2)=1000
・ターボファン:質量20 ✖ 速度 (5^2)=500
同じ反動力100のとき、ターボファン方式なら大量の空気を低速で排気するため、必要なエネルギーはターボジェットの1/2となります。
泳ぎでイメージしてみる
このことは、泳ぎで例えてもイメージしやすいかと思います。
同じエネルギーを使って泳ぐ場合、バタバタと水しぶきを上げて泳ぐよりも、大きな足ひれをつけてゆっくりと手足を動かした方が長時間泳ぐことができます。
しかし、バタバタと激しく水しぶきや音をたてて泳ぐのは疲れはするがスピードは速い。これが戦闘機エンジンにも当てはまる。
騒音は酷く燃費も民間機より悪いが、亜音速から超音速まで幅広い速度域に対応する軽量で小型の戦闘機用エンジン(現在はターボジェットではなく、低バイパス比ターボファンが使われている)
一方、足ひれだと楽に泳げる(燃費は良い)が泳ぐ速度には限界があり、あまり速くは泳げない。
これが民間機に使われているターボファン・エンジンにも当てはまる。
推進力の8割を大型ファンによって発生する現代の高バイパス比ターボファン。大量の空気を低速で排気するため静かで燃費が良い。
戦闘機はなぜうるさい?(排気速度と飛行速度の関係)
同じ推力を得たい場合、前述のとおり排気速度を下げるほど静かなエンジンとなるが、闇雲に下げることはできない。
理論上、エンジンの排気速度が 900 km/hなら飛行速度が900km/hに達すると、エンジンの推進力は0となる。
実際のエンジンでは、巡航速度よりも少し早い排気速度に設定されている。
【旅客機エンジン】
ファン排気速度:1,080~1,224 km/h(300~340m/s)
【軍用機エンジン】
排気速度:2,196 km/h(610m/s)
アフターバーナー時:3,276 km/h(910m/s)
軍用機は機体によって様々な用途があるため排気速度はその一例ですが、民間機用と軍用機用では同じ推力クラスでも排気速度はこれくらい差があります。
騒音は排気速度の8乗に比例することから、戦闘機用エンジンはかなり大きな音となる。
小型機の部類に入るA320型機、エンジンを換装したneoシリーズはエンジン直径が2メートルにもなった。
民間機のエンジンは、燃費や騒音の低減を重視していることから常に巨大化の一途をたどっている。
一方、戦闘機用エンジンは、騒音が酷くて燃費も若干悪いが、小型軽量で胴体内にも収納できるほどコンパクト。飛行できる速度域も亜音速から超音速まで幅が広い。
B737-800とF-15イーグルは、どちらも発生する推力は同じという関係にある。
一方は170人の乗客を乗せ亜音速で飛行し、もう一方は1人または2人の乗員により激しい機動飛行や超音速での飛行を可能とする。
ジェットエンジンから噴射される排気ガスの速度によって、機体の用途はここまで大きく変わる。