世界最速の旅客機として歴史に刻まれているコンコルド(Concorde)は、音速の2倍(マッハ2)という速さで巡航飛行していた。
民間機では唯一、リヒート(アフターバーナー)付きのターボジェットエンジン「ロールスロイス/スネクマ製 オリンパス593」を装備。そのパワーは、マッハ2.05で巡航飛行中の際、各エンジン1基につき約36,000馬力に相当する推力を発生した。
ここでは、オリンパス593の低圧タービンブレード(LPT)を紹介します。
Arpingstone, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
オリンパス593 低圧タービンブレード
SST Concorde
RR / Snecma Olympus593
Low Pressure Turbine Blade (LPT)
- エンジン型式:RR Olympus 593 Mk610
- 低圧段 最大回転数(N1):6,630 rpm
- 材質:ニッケル基耐熱超合金 Nimonic 115または改良DS材
- 結晶構造:鍛造または一方向性凝固(DS材)
- 冷却方式:コンベクション
- サイズ:全長 約32cm 重量 850グラム
- 備考:低圧タービンに関しては面白いエピソードがある。高圧タービンよりもガス温度が低い低圧段になぜかハイパフォーマンスな合金が使用されている。その理由は、通常2~3段必要な低圧段を単段にしたため1枚あたりのブレードサイズがかなり大きく重くなった。(一般的なターボファンの場合:高圧低圧ともにタービンの重量は100~400g程度)その遠心力に耐えるために必要な性能を得ることができる合金がNimonic115だったといわれている。材質については、1998年時点まではNimonic115だったということはほぼ正確な情報ですが、2000年初頭まで使用されていたかは不明です。後期型は改良されたDS材などに変更になった可能性もあります。
Nimbus227, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で
タービンブレードの画像
・オリンパス593エンジンの低圧タービンブレードは、排気速度を極力低下させずに必要な駆動力を燃焼ガスから受け取るため、一般的にはあまり見ることのない巨大なタービンとなっている。
※F-15戦闘機のF100エンジンには、高圧(2段)・低圧タービン(2段)が採用されている。
サイズは長さ32㎝・重さ850グラム、計79枚で構成される1段の低圧タービンで、7段の低圧圧縮機を最大6,630rpmで駆動する。
・長さ約32cmの大型ブレード1段で低圧側を駆動
・コンベクションクーリング用 8個の冷却孔
・根元の左右に各4つの冷却孔がブレード先端まで貫通している
・一般的に2~3段必要な低圧段を単段で達成するためにブレードは巨大化した。その遠心力に耐えるため取り付け部は8溝のファーツリーになっている。
・左からオリンパス593(低圧タービン)、593(高圧タービン)、JT9D(高圧タービン)
RR オリンパス593 Mk610 仕様 | |
最大推力 | 38,050 lb(アフターバーナー使用時)、31,350 lb(未使用時) |
サイズ | 全長:7.11m、直径:1.21m |
重量 | 3,175 kg |
構成 | 圧縮機:低圧7段、高圧7段 |
タービン:低圧1段、高圧1段 | |
総圧力比 | 15.5:1 |
推力重量比 | 5.4 |
内部空冷を持つ鍛造タービン内部に空冷構造を持つタービンブレードの製造法は、一般的に精密鋳造(一方向や単結晶)です。しかし、過去のRR製エンジンでは1975年のRB211-22まで鍛造タービン翼に固執していた時代があります。
製造方法としては、Nimonic製ブロックの正確な位置にスチール製ピンを詰めその状態で鍛造及び機械加工し、ブレード形状が完成したら弗化水素でピンを溶解するという方法。名称は”Forged Blade”と呼ばれていました。
鋳造技術を得意とするブリストル買収後は鋳造タービン技術が発達。固執していた鍛造はやめ、1975年以降のRB211からは鋳造に切り替えられました。
~ジェット&ガスタービン (その技術と変遷)~