・RB211シリーズは、ロールス・ロイスがロッキード L-1011(トライスター)用として開発した大型ターボファンエンジン。
その種類は-22Bから始まり、推力が増強された派生型の-524B型/-524D型(747クラシック)、最終型の-524G/Hがある。
B747-400/B767用として開発された-524G/Hは、様々な改良により高効率化され低燃費を達成した。そのカギとなった高圧タービンブレード(HPT)を紹介します。
・複数の方から「当該ブレードは、B747-200(RB211-524D4)であり普通鋳造による古いもの」とのご指摘を頂いておりますが、当サイトではRB211-524G2-19のブレード部品番号と完全一致を確認しております。資料の性質上、ネット掲載は出来ませんので読者の方に判断は委ねますが、正誤に関しての議論をする予定はありません。当サイトでは変更せずに掲載致します。
RR RB211-524G2-19 高圧タービンブレード
BOEING 747-400
Rolls Royce RB211-524G2-19
High Pressure Turbine Blade (HPT)
- エンジン型式:Rolls Royce RB211-524G2-19
- 開発年:1989年
- 材質:ニッケル基耐熱超合金 MAR-M-002
- 結晶構造:一方向性凝固(DS材)
- 冷却方式:コンベクション+フィルム
- 搭載機種:B747-400/B767
・アメリカ製のエンジンは、ブレードの翼先端にシュラウドがないフラットな高圧タービンブレード(HPT)が多いが、RR製のエンジンでは高圧タービン翼の先端にシュラウドを設けている場合が多い。
これは燃焼ガスの漏洩を最小限に抑えて効率を高める効果がある。しかし、翼先端に重いシュラウドがあるとブレードの根元に大きな遠心荷重が作用するため構造の強化など不利な面もある。
特に、離陸時には1枚のタービンブレードの根元に約10トンという大きな遠心力が作用することから、効率は良いが、全体的に頑丈に作る必要があるため重くなる。
しかし、この方式は初期のRB211から現在のTrentシリーズまで継続的に採用されていることから、重いというデメリット以上に効率の面で大変優れた性能を発揮していると考えられる。
RB211-524G HPTのもう一つの技術的特徴は、毎分 10,000回転以上で回っている状態の高圧タービンブレードの翼内部に、HP側(高温)とLP側(低温)の異なった二種の冷却用圧縮空気を同時に導入する特殊な構造がある。
ブレード画像
・初期のRB211-22から改良を重ね、燃費や性能が格段に進化した最終型の-524G/Hエンジン。
その性能の要となる高圧タービン翼は、長さ11㎝・重さ230グラムの小さなブレードだが、離陸出力時には 1,450℃という高温高圧の燃焼ガスに耐え、10,000 rpm以上の高回転により約10トンという強大な遠心力が根元に作用している。
このような過酷な環境でも、数千回・数万時間にも及ぶ大西洋横断を繰り返すことが可能。
・実際のブレードは高温高圧の燃焼ガスからメタルを保護する目的で、ブレード表面にPt-Al(プラチナ・アルミナイド)や白色のセラミックコーティング(TBC)が施されている。
※このブレードは展示鑑賞用オブジェのため、ノッチと呼ばれる使用不可処置やコーティングの一部が剥がされています。
・初期型の-524Gは、後縁が直線形状となっている。
後に改良された-524G-T(-524H-T)では、Trent700と共通コアとなりタービンブレードはより3次元的な立体形状に変更された。
2種の抽気で空冷する特殊な高圧タービン翼
・RB211シリーズの高圧タービン(HPT)は、-22の時代からブレード内部を空冷するために HP側(高温)・LP側(低温)の二つの冷却用圧縮空気をブレード内部に導入している。
一般的なエンジンは、高圧圧縮機最終段の抽気を使って高圧タービンを内部空冷している。
10,000 rpm以上で高速回転しているブレード内部へ確実に正確な量の冷却空気を導入するこの方式は、構造的にも極めて複雑となることから世界的に見ても採用数は少ない。
HP feedとLP feed
離陸出力時、燃焼ガスは(約1,400℃)という高温高圧の状態で高圧タービンブレードに突入する。特に高温となるブレード前縁と腹側(凹側)には、燃焼前の高圧空気(HP feed)をブレード底面から導入し冷却している。
ブレード内部を循環冷却した圧縮空気は、前縁に配置された微小な冷却孔からシャワー状に噴き出し、翼表面を空気の膜で覆うフィルム冷却の役目も兼ねている。
ブレード前縁からシャワー状に空気を噴き出すには、燃焼ガスよりも圧力が高くなければ正常なフィルム冷却はできない。その圧力差はわずか200kPa程度といわれている。
また、フィルム冷却孔を設けたくない背側(凸側)には、LP側から温度の低い圧縮空気を導入してコンベクション(対流)冷却を行い、先端のシュラウドから排出する。
冷却空気は内部循環しながら前縁にある無数の冷却孔から噴出し翼表面を冷却する
RR RB211-524G/H-Tシリーズについて
・ロッキード・トライスター(L-1011)用として開発されたRB211-22Bエンジン。その後、B747クラシック用として推力を増強したRB211-524Bへと進化した。
最終シリーズとなる、B747-400・B767用のRB211-524G/Hでは、ワイドコード・ファンブレードの採用・圧縮機の改良・新しい材質のタービンブレード・FADECによるデジタル燃料制御など数多くの新技術が取り入れられた。
それ以降は、次世代のエンジンとしてRB211の技術を受け継いだTrentシリーズへとバトンが渡され、1995年にはエアバスA330用のTrent 700、1996年 B777用 Trent 800が開発された。
Trent 700/800は両者共通のコアを使用していることが特徴。
ファン径を変えることで 60,000~90,000 lbfという幅広い推力に対応。高性能なコアをあえて推力の低いTrent700に使うことで、高圧系は頑丈で長寿命という付加価値が得られた。
このTrent 700/800のコア(高圧系)を、-524G/Hシリーズに転用できるのではないかという考えで改良されたのが、-524G/H-T(B747-400・B767-300)エンジン。
この-Tシリーズは、1998年から運用が開始された。
-Tの大きな改良点は、燃費や整備コストの決め手となる高圧タービンブレードの変更。
従来の-524G/Hの高圧タービン動翼は一方向性凝固による鋳造だったが、524G-T / H-TシリーズではTrent 700と同じ材料による単結晶鋳造に変更されたことで、耐熱温度の上昇と寿命延長が同時に得られた。
-524G/Hは、-Tシリーズになったことで劇的に長寿命化されたエンジンとなった。
Laurent ERRERA from L’Union, France / CC BY-SA
左から、RB211-524D4(747クラシック)・-524G(747-400)・-524G-T(747-400)形状にあまり違いは見られないが、材質の進化によって劇的に長寿命化が達成されている。また、ブレード空冷用の冷却空気の削減によって燃費も改善された。(全てのブレードはスクラップ処置が施されているため、実際の取外し品とは色味が違う場合があります)
タービンブレードの材質や形状
ニッケル基耐熱合金 単結晶材 | ||
エンジン型式 | 高圧側 タービンブレード | 中圧側 タービンブレード |
RB211-524G/H | Mar-M-002 | 不明 |
RB211-524G/H-T | CMSX-4 | CMSX-4 |
Trent 700 | CMSX-4 | CMSX-4 |
Trent 800 | CMSX-4 | CMSX-10 |
※資料:SC and DS Blades and Vanesより
エンジンスペック
ロールスのパワープラントは難しいですな。BとかGで性能変わりすぎ。Tはトレントの略かいな。