小型ヘリ AS350「エキュレイユ(7名乗り)」のアリエル2B(847馬力)よりも大きなパワーを生み出す旅客機のAPU。
・ほとんどの大型旅客機には、主翼に吊るされた推進用の主エンジンとは別に胴体尾部内に補助エンジン(APU)が搭載されています。
Auxiliary Power Unit:APU(補助動力装置)と呼ばれるこのエンジンは、飛行用の推進力ではなく地上での駐機中に機内の電力や空調に必要な圧縮空気を供給するための小さなガスタービン・エンジンです。(緊急時には飛行中でも運転できるタイプもある)
その出力は、B747に搭載されたものだと約1,100馬力。その隠れた働き者、APUにはどんな能力があるのか。気になる燃費などについても紹介します。
B787に装備されているAPU「APS5000」も、B747と同じ1,100馬力の軸出力がある。
APU 補助エンジンの構造
Mliu92, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons ターボシャフト・エンジンの構造
旅客機の補助エンジン(APU)には、主エンジンと同じ燃料で動作する小さなガスタービン・エンジンが使われています。
ガスタービンエンジンとは、吸い込んだ空気を圧縮機によって圧縮し、燃料を吹きこんで燃焼させ、その排気(燃焼ガス)の一部で風車の役目をするタービンを回転させて駆動力を得る装置。
そのタービンによって、同軸でつながっている圧縮機を回転させることで自立運転する。
また、残りの排気エネルギーを高速で噴出すると原始的なジェットエンジン(ターボジェット)となり、別に設けたタービンに吸収させ新たな軸から動力を取り出すとターボシャフト・エンジンとなる。
ターボシャフト・エンジンのシャフトの先に回転翼(プロペラ)を接続すればヘリコプター用のエンジンとなり、電力や圧縮空気の供給源となる発電機・圧縮機を接続すれば補助動力装置(APU)となる。
ここでは航空機用途に限定しているが、パワータービンを介して出力される回転力を発電に使う地上用ガスタービン、スクリューの駆動に使う船舶用、鉄道、戦車、石油プラントなどガスタービンは様々な場面で活用されている。
【ヘリ用のターボシャフト・エンジン】
Sleipnir, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons ヘリ用 ターボシャフト・エンジン T53
APU:Auxiliary Power Unit(補助動力装置)
エアバス A350には150kVAの電力と圧縮空気を供給できるAPU「HGT1700」が装備されている。
・現代の旅客機は、ほとんどの機体の尾部(垂直尾翼後方)にAPUが装備されています。
重量 200~300 ㎏程度の小さなガスタービンエンジンは、主翼に吊るされた飛行用のメインエンジンと同じ燃料(ケロシン)を使って、B747用(1,100馬力)・A320用(536馬力)の軸出力を発生させる。
B747-400の場合、その軸出力で容量 90kVAの発電機 2台を駆動し合計180 kVA(一般家庭に換算すると約60~80軒分)の電力を機体に供給する。
また同時に圧縮空気も供給可能で、その流量は毎秒 4.2kg(毎分 250kg)、圧力 3.4気圧の圧縮空気を機体に供給している。この圧縮空気は、機内のエアコンやエンジンスタートなどに使われている。
APUがなければ、電力・空調・エンジンスタートに3台の地上支援車両が必要
・搭乗した機内が明るく、温度は快適、コックピットを含む全ての電気・電子機器が不自由なく使えるのは、APUが主エンジンスタートまでその役割を担っているから。
APUがないDC-8の時代は、4トントラックの荷台に重さ800kgの電源装置(ディーゼルエンジンで発電機を駆動)を乗せた電源車(GPU)と、10トン車の荷台に重さ5トンの圧縮空気供給装置を乗せたASU車、冷暖房設備を搭載したエアコン車の3台が必要だった。
その役目を、現代の旅客機はわずか200kg程度の小さなガスタービン・エンジンで行っている。
AssetBurned at German Wikipedia, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons 軸出力536馬力を発生するA320のAPU(APS3200)
APUの燃費はどれくらい
従来機の圧縮空気を必要とした機器のほとんどを電気式に置き換えたB787型機。使用する電力が大幅に増えたことで、APUの発電機も225kVA(2台)合計450kVAと大容量になった。この数値は、B747-400のAPUの2.5倍となっている。
・ガスタービンエンジンという響きだけで、小型でも燃費が悪いという印象ですが一体どれくらい燃料を使うのか?
APUの燃費は、使用する外気温や負荷(電気や圧縮空気)によって変動しますが、平均的な数値としてはこれくらいです。
【B777:ハネウェル GTCP 331-500の場合】
- 電力のみ供給:約 330リットル前後/1時間当り
- 電力+エアコン:約 410リットル前後/1時間当り
駐機中にAPUを運転すると、B777の場合は1時間当りドラム缶 2本程度、小型のB737の場合だと 150リットル程の燃料を消費します。
またGTCP 331の後継として開発された、エアバス A350用 Honeywell HGT1700 は約10%の燃費削減、25%の排出ガスが削減された。
APUの燃費を数値で見ると結構多いようにも感じますが、前述の地上支援車両(GPU車・ASU車・エアコン車)3台分が不要というのは離島など小さな空港ではメリットが大きい。
環境や騒音問題が叫ばれてはいるが、折り返し便(30分~60分)など定時出発が必要とされる場面ではAPUの方が利便性は高い。
1時間を超える駐機や夜間整備では、固定供給設備や支援車を利用した方が燃費コストの面でもメリットがあると思われる。
気になる騒音については、APU本体は運転時に「ボォー」といった排気音のみで、騒音・騒音と叫ばれるほどではない。
実際に「キーン」と甲高い騒音を発しているのは、APUの圧縮空気で動作するエアコン(エアサイクルマシン)の音。
APUで電気だけを使用している場合、実際はかなり静か。航空機周辺のトーイングカーや地上支援車両のほうが騒音源となっている場合もある。
出発10~15分前になるとAPUをスタートする。前脚近くの電力ケーブル(GPU)と胴体中央のエアコンホースが取り外される。