1枚のタービンブレードには18トンの遠心力が作用する。それほんと?
・300トンの巨体も60秒以内に宙へ浮き上がらせる現代のターボファンエンジン。
その内部で回転している高圧タービンブレード 1枚に作用する遠心力は、約15~18トンという説明をよく見かけますが何だかアバウトな感じも。
実際の数値はどれくらいなのか。
今回は747、737、コンコルドなど様々なエンジンのタービンブレードを用意して、具体的にどれくらいの遠心力なのか計算してみました。
もくじ
タービンブレードの遠心力
様々な文献で目にする機会の多いタービンブレードに作用する遠心荷重の例え。
具体例としては
「1枚のタービン翼には18トンの遠心力が作用している」
「タービンブレード1枚には、バス2台分の重量に相当する遠心力が作用する」など。
これでは参考値として少し大雑把すぎるので、正確な数値が記載された資料を用意。
あるエンジンの公式資料にはこのように記述されていました。
「バイパス比5.0の民間用ターボファンエンジンにおいて、最大推力 27,000 lbf発生時、高圧タービンブレード1枚(0.35 lb)に作用する遠心力は29,250lb」
クレジットカードより小さな手のひらサイズの重さ約160グラムのHPTブレード、離陸出力(最大回転)時には29.250ポンド(約13.2トン)の遠心力がディスクに作用する。
この数値を基準として、3種のエンジンがどれくらいなのか比較してみます。
遠心力の公式
Thilp, CC0,
半径r(m)の円上を、質量m(kg)、速度v(m/s)で等速円運動している物体を考えると、遠心力はこのような公式になります。
もっと詳しく知りたい方はWiki [遠心力 centrifugal force]で確認してください。
BOEING 747(CF6-50)
//CF6-50
*HPT1(N2:100 %rpm)
ブレード全長:105 mm
ブレード重量:265 g
ディスク直径:550 mm
N2回転数:10,761 rpm
遠心力:92,542 N(9,443 kg)
遠心力:約9.4トン
BOEING 727 / 737-200(JT8D)
//JT8D-17
*HPT1(N2:100 %rpm)
ブレード全長:112 mm
ブレード重量:196 g
ディスク直径:440 mm
N2回転数:12,245 rpm
遠心力:72,190 N(7,361 kg)
遠心力:約7.3トン
Concorde(Olympus593)
//Olympus593 Mk.610
*HPT(N2:100%rpm)
ブレード全長:170 mm
ブレード重量:455 g
ディスク直径:635 mm
N2回転数:9,016 rpm
遠心力:128,777 N(13,131 kg)
遠心力:約13.1トン
・その他にも様々なエンジンのHPTに掛かる遠心荷重を計算したところ、大型エンジンで約10トン前後、小型エンジンで5トン前後、ターボプロップが2トン前後という結果となりました。
おまけ:気になるコンコルドのLPTブレード
巨大さでは他のエンジンを圧倒するサイズの、コンコルド(オリンパス593)エンジンの低圧タービンブレード。
画像右の小さなHPT1(9.3㎝)はB747を飛ばしたJT9Dエンジン。真ん中が先ほど計算したオリンパス593のHPT(17㎝)。そして、左のブレードが全長30㎝を超えるオリンパス593の低圧タービン動翼(LPT)となっている。
ほとんどが100~300gの間で収まる旅客機の高圧タービン動翼だが、こちらは一枚の重さが855グラムとかなり大きくて重い。
では、最大出力時の遠心力はどれくらいなのか。
//Olympus593-Mk610
*LPT(N1:100%rpm)
ブレード全長:310 mm
ブレード重量:855 g
ディスク直径:510 mm
N2回転数:6630 rpm
遠心力:105,097 N(10,716 kg)
遠心力:約10.7トン
ブレードが巨大なだけあって、遠心力もとてつもなく大きいことを期待したが意外にも一般的な数値に収まっている。低圧段(LP側)ということもあり、回転数が低く、ディスク直径もHPT段に比べて小さいことからこのような値となっている。
一般的なターボファンエンジンの高圧タービンブレード1段目は、約10トン前後の遠心力を想定してツリーの形状が設計されていることが多い。
また、時々みかける「遠心力18トン・・・」という表現は少々盛っているか、GE90やGEnxあたりのエンジン例かもしれません。
なんとなく重そうな、RRトレントシリーズでも700/800なら10トン前後。
いずれにしても、普通から少し離れた特殊なエンジンという気がします。
KC-135R:F108(CFM56-2)エンジン