現代技術の粋を結集したジェットエンジンも、コンピューターがなければ動かない。
・1960年代のターボ・ジェット(第一世代)から、1980年代後半の高バイパス比ターボファン(第四世代)の間に、使用する燃料は約半分以下(52%削減)となった。
これには、耐熱素材の進化や大口径ファンの開発によるものも大きいが、もう一つ燃費改善に重要なシステムが、燃料を制御するコンピューターの存在。
燃料制御装置を大まかに分類すると次の3種類がある。
「油圧機械式FCU(Fuel Control Unit)」
「電気式/電子式FCU」
「FADEC(全デジタル電子式制御装置)」
今回は、この3種類の燃料制御装置について紹介します。
もくじ
燃料制御装置(Fuel Control Unit)
エンジン内で燃料を完全燃焼させるには、燃料1に対して空気15の理論混合比に近づける必要があります。
地上を走る自動車の場合は、急激な高度変化や温度変化がほとんどないため比較的容易にECU(燃料制御装置)と燃料噴射インジェクターによって、理想的な混合気を作り出すことができます。
しかし飛行機の場合、高度や速度の増減が大きく変化する環境の中を飛行するため、エンジンに流入する空気の密度や流量・温度が目まぐるしく変化します。
どのような状況でも、パイロットが要求する推力を発生させるために燃料流量を調整するのが燃料制御装置です。
油圧機械式FCU(Fuel Control Unit)
ハミルトン・スタンダード製 JFC-68型 機械油圧式FCUを装備したJT9Dエンジン
1960年代のジェット旅客機~初期のB747の時代には、電子制御技術を利用することが難しく油圧機械式の燃料制御装置(FCU)が使われていました。
この油圧機械式は、3Dカムの動きや複雑なリンク機構を使い最適な燃料を計量していた。一見単純そうな装置だが、刻一刻と複雑に変化する空気密度や気温・流入する空気流量に対しての最適解を機械的に算出する必要があった。
単軸のターボジェットでも難しい装置だが、2軸式の大型ファン・エンジンに装備された機械式FCUは、人類史上最も複雑な装置ともいわれている。
真相は不明だが、JT9Dに装備されたハミルトン・スタンダード製 JFC-68型 FCUは、あまりに複雑すぎて開発に携わった設計者は生活に支障をきたすほどだったという噂話もある。
電気式/電子式FCU
CFM56-3には電子/機械油圧式 FCUが装備されていた。
1980年代に入ると、ファンをさらに大型化した ハイ・バイパス比エンジンが主流となってきた。それに伴い燃料制御に必要なパラメータも多くなり、従来の機械式では制御が難しくなった。
そこで登場したのが、一部の機能をアナログ/デジタルコンピューターによって処理し、その結果を従来の機械式FCUに反映させ燃料を制御する装置だった。
時代的には、B767-200/A300(CF6-80A)、B737クラシック(CFM56-3)、B747、DC-10など、第三世代・第四世代初期のジェット機を中心に使われていた。
FADEC(全デジタル電子式制御装置)
CFM56-7BにはFADEC2や3といった進化型が装備されている。
1990年代になると計器や操縦系統のデジタル化が著しく進化し、自動操縦装置や飛行管理システムが複雑に統合化され効率的な運航が可能となってきた。
コンピューターの信頼度も高まり、エンジン制御にもデジタル化が進められるようになった。多くのパラメーターを同時に処理し、複雑な計算も難なくこなせるコンピューターはエンジンにとって都合がよく、刻々と変化する状況に瞬時に対応できる燃料制御は常に理想的な空燃比に近づけることが可能となり、結果的に燃料消費の削減にもつながった。
また、自己診断装置などの機能も大幅に進化している。
初期のFADECでは、故障情報の記憶や不具合部品の検出などだったが、最新のタイプになるとリアルタイムデータをエンジンメーカーに送信し、運用による劣化(EGTの上昇・振動・油温・その他)の兆候からブレード破断や故障の前兆をモニタリングできる機体もある。
実際に、徐々に平均値が上がったEGTとN2の振動から、1枚のタービンブレード欠損を見つけ大きな故障になる前に事前に対処できたという事例もある。
このFADECは、B747-400/767-300(CF6-80C2)やA320/B737NG(CFM56)など第四世代以降の飛行機に搭載されている。
おまけ:FADECに入力されるパラメーター
エンジン内に張り巡らされたセンサーの入力から、複雑な計算を行い最終的な結果として出力される燃料流量。どのような状況を飛行していても、常にエンジンが停止せず効率よく運転できるようFADECが総合的に制御している。
そのFADECに入力される信号にはどのようなものがあるのか。電子式燃料制御とFADECの比較を紹介します。
※あくまで参考例です。全てではありません、省略している信号もあります。
電子式燃料制御に入力される信号
- TLA(スロットルレバー角度)
- N1/N2 SPEED
- FAN INLET TEMP/PS
- POWERなど
FADECに入力される信号の一部。
N1 rpm , N2 rpm , EGT , TLA , T/R , P2 , T2 , LPC P , BLD , OIL T , OIL P , SVA , FMV , HPT TCC , LPT ACC , LPT P , FUEL TEMP , IDG , IDG OIL P , IDG OIL P , STARTER , PMA , N1 VIB , N2 VIB , ARINC429 , TYPE ID PLUG , RATING PLUG , FUEL SW , IGN SW , CABIN P,BLEED T,BLEED P,,,,,,
・FADECに入力される信号はまだまだありますが、これらのデータを毎秒200回以上処理することによって緻密な燃料制御を行っています。
出力される信号も、燃料流量だけでなく可変静翼・抽気・タービンケース冷却・計器表示信号・故障情報のモニタリングなど多彩な機能が統合されています。
またFADEC本体の故障に備え、同一機能のバックアップも用意されている。【Ch.A】【Ch.B】と基盤だけでなく、電源系統も全く違う完全に独立した系統が組み込まれている。
旅客機に搭載されるエンジンは、あらかじめ推力を高めに設定し開発されたエンジンも多い。このベースエンジンの推力を減格して使用することで、部品寿命を延ばしメンテナンスコストを抑えられるメリットがある。
この推力変更もFADECに差す”RATING PLUG”を変更することで容易に可能という。ただし、”できる”というだけでメーカーとの契約上、気分によって変えることはできない。
手のひらサイズの小さな ”TYPE ID PLUG”とコンピューター、 これがなければエンジンは自分が何者かさえわからない。