シリーズ最高の大盤振る舞い、全6種エンジン部品、当りは「タービンブレード」
2022年1月17日、ガチャ界に衝撃を与えた「JAL 整備のお仕事」、実際に空を飛んだ部品をカプセルに詰めた景品は当時メディアでも注目された。
その後、第2弾、3弾と続き今ではもう何弾目という分類が無くなるほど再販される人気のJALガチャ。
そんな中、約3年ぶりとなる小松基地祭(2022年9月19日)にJALも出店。もちろんJALガチャ「整備のお仕事」も健在。
通常ならシートの端材やスイッチカバーがメインだが、今回は全ての景品がエンジン部品という完全マニア向けの豪華なラインナップ。
今回は残念ながら暗黙のアタリ「APUのタービンブレード」の紹介ではないが、リーフレットには無い情報(役目・材質・新品価格)を深く追求して遊んでみます。
もくじ
【準備編】今回のラインナップ(小松基地祭編)
・今回は全6種類の内、 B767-300ER(5種)とB777(1種)のエンジン部品という豪華な内容。
特に「④:APU(補助動力装置)GTCP331-200 ガスタービンエンジンで使用されたタービンブレード」は、このガチャシリーズ最高の大当たり品だと個人的には思う。ある意味、これがシクレ的な存在。周囲でもこれを当たった人は2人だけだった。
①・②・③・⑤に関しては、まぁいつも通りの平常運転。
「②:セルフロックナット」に関しては、過去の記事で紹介していますので気になる方はチェックしてみてください。
今回調査する部品は「⑥:シール」、???シール・・・、何コレ、一見しただけではどこが上なのか下なのか向きさえ分からない。
意味が分からなければハズレに近いが、この記事を最後まで読めばナルホドと唸るはず。エンジン部品マニア向けの景品です。
① 767-300ER CF6-80C2 シール
・景品の「シール」は、767-300ER型機に搭載されているCF6-80C2エンジンの部品で、サイズは 27X25X40㎜、かなり軽量化され肉抜きされているものの 重量は23グラムと意外に重い。
一般的にシールと言えば、ゴムやカーボンなど密着性の高い素材が浮かぶがこちらは金属。それも、アルミやチタンではなくステンレスでもない。ニッケル基耐熱合金独特の色合いや感触がある。
説明書には「高圧タービンのブレード根元に使用されている」とあるが、CF6-80C2の高圧タービン動翼は2段ある。一体、どこでどのように取り付けられているのか。
This image is a work of an unknown Federal Aviation Administration employee., こちらはCF6-6の概略図だが、CF6-80C2も基本構成は同じ。赤丸の高圧タービン部は2段式タイプとなっている。
② どのような部品なのか?
・リーフレットを読み進めると、「ブレードが抜け出さないようにするため」とあります。
名称はシール(燃焼ガスの流入や冷却空気の流出を防ぐもの)のはずが、ブレードロックの役目も兼ねている。一つで二役ということがリーフレットからわかった。
それでは、形状を丹念に観察してみます。
部品左側の「帽子のツバ」のように見える部分、専門書のタービンブレードの名称解説ではシールリップとも呼ばれます。
シールリップで燃焼ガスの流入や冷却空気の流出を防ぎ、部品の全体的な構造を利用してタービンブレードが回転中にディスクから抜けないようロックしている。
③ HPT1用かHPT2用か
CF6-80C2エンジンの高圧タービン部は2段式となっており、ブレードと呼ばれる回転する動翼も一段目と二段目があります。
まずは、この部品がHPT1なのかHPT2用なのかを判別します。
このサイズ感からHPT1用というのは想像できますが、実際のブレードとサイズ感を比較してみます。
サイズ的にHPT1とピッタリ合う。説明書にはないがHPT1の関連部品に間違いないと思われる。
④ どのように取り付けるのか?
ヒントは圧着痕にあった
HPT1用というのは上の画像からも明らかなとおり確証を得ることができましたが、最大の難関はどのように取り付けられているのか?
Olivier Cleynen, CC BY-SA 3.0,
タービンブレードの根元はクリスマスツリー(ファーツリー)のような凸形状、ディスクは凹形状に加工することでブレードをディスクに植え込んでいる。
最大出力時には、数トン規模の遠心力がディスクとブレードの根元(ツリー部分)に加わります。その繰り返し荷重によって、上の画像のような圧着痕と呼ばれる金属同士が密着した痕が残ります。
この痕跡を丹念に探すと、ツリーとは逆向きの圧着痕がありました。
”SCRAP”の文字の左右に、ツリー部の圧着痕とは逆向きの痕跡がある。
そして「シール」に残る僅かな圧着痕を探して、ブレードと組み合わせるとこうなります。
これがこの部品の取り付け場所。
【まだまだ続くマニアの執着】新品価格と材質(消えた部品番号)
・今回の景品も第2弾や3弾に続き、部品番号が削り取られています。この処置には慣れていますので、いつものように顕微鏡で丹念に確認。
何となく確認できたのが、M?8??2、残りは読めないが6ケタという事はわかった。
ここで登場するのが Google先生、お得意の“逆引き”という技を使います。
① その前に「逆引き」とは?(前回のおさらい)
・【第二弾 エンジンボルト】の時にも紹介した「逆引き」という技。なんだそれ?という人のために、同じ説明になりますが簡単に紹介します。
飛行機パーツマニアの間では、部品番号(パーツナンバー)からエンジンの型式や名称を調べる方法がもはや常識となっています。
オークションやフリマでは、出品者にパーツナンバーを質問してネットで検索する人も多くなりました。これが商品説明と一致していれば、素性は正しいと判断して購入する人が大半を占めている。
そのおかげで、「B787の圧縮機ブレードと偽って、古いB747のブレードを売る」という昔ながらの間違いはかなり減った。
しかしこの識別は便利な反面、大きな欠点もある。
正しく正確な部品番号がわからなければ次に進めないのだ。
そんな時でも、パーツの特徴から部品番号を割り出せる高度な識別方法がある。それが、“逆引き”という技だ。
結構面倒で時間を要すので、普段はこのような部品には使わない。謎のタービンブレードの素性や材質調査、型式特定などに使う技です。
【調査】使うのは「Google 検索」だけ
- 一般的な方法:部品番号→エンジン型式や名称を調べる
- 逆引き:部品のある特徴→部品番号を割り出す
検索結果
・検索結果はこんな感じで、下記の “CF6-80C2” の箇所にナットの情報が表示されている。
「検索キーワード」や「部品番号」「サイト」の公開は少し支障があるので、別の機会にでも紹介する予定です。
このような方法で判明した「シール」の情報がこちら。
② 逆引きによって判明したシールの部品番号
M88P12(部品の打刻:M?8??2)
③ 材質
・部品番号がわかれば一気に検索を進めて、材質と新品価格まで調べてみます。
材質:インコネル系
インコネルの番号は、調査中に失念してネットの海に流れてしまいました。見つけたら再度記載します。
④ 新品時の予想価格
約 22,000円くらい
※材質と価格の2項目は、偶然出てきたので信憑性はおまけ程度です。
【調査終了】1時間の成果がこちら
1時間前
付属のリーフレット情報のみ(どのように使うのか用途不明)
↓
1時間後
JAL ガチャポン 「整備のお仕事」<小松基地祭> | |
景品名 | ⑥ シール (CF6タイプ) |
① 機体型式 | ボーイング 767-300ER |
② エンジン型式 | CF6-80C2B7F |
③ 取付箇所 | 高圧タービンローター部 高圧タービン動翼 一段目(HPT1) |
④ 部品番号 | M88P12 |
⑤ 材質 | インコネル系 |
⑥ 新品価格 | 22,000円くらいかもしれない |
⑦ 磁性 | 非磁性体 |
⑧ サイズ | 27X25X40㎜ 23グラム |
※表の内容はネット検索レベルの結果です。信頼度はわかりません。あくまで遊びという事をご理解ください。
さいごに:なぜか-80C2では消えたHPT1のシールリップ
左から古い順(CF6-50C・CF6-80E2・CF6-80C2・GE90)
・これまでのGEエンジンのHPT1を観察すると、古いCF6-50や新しい部類に入るGE90まで全てシールリップはブレードと一体になっている。
それがなぜかCF6-80C2では消滅して別部品となった。
ただ、シール機能とブレードロックを兼ね備えた-80C2の「シール部品」は斬新なような気もする。
特にシール部分は運転中に削れる場合があり、一体型の場合はそれが修復可能であれば良いが、シールの摩耗だけで廃棄となればブレード1枚丸ごとの損失となる。
ある型式の同型エンジンの一例では、10年前は1枚60~100万円と言われたHPT1が今では250万円程度まで高騰しているという。
そうなると、シール部分だけを別部品として交換可能にした-80C2は合理的かもしれない。しかし、その後の新しいエンジンではなぜか採用されていない。
そんなどうでもいいことを考えながら一つの部品を眺める時間がまた楽しい。
これがJALガチャ「整備のお仕事」の魅力だと思う。
一つ知ったことで、また一つ疑問が増えた。
また次回の弾でエンジン部品があれば、マニアックな謎解きを紹介したいと思います。
JAL 767-300ER ( JA659J ) Engine : CF6-80C2B7F