KC-135R(空中給油機)やDC-8-70シリーズ(改修機)に搭載されているCFM56-2(軍用:F108)エンジンを正面から見ると、民間機のエンジンとは少し変わった雰囲気があります。
エンジンの顔であるファンに注目すると、B747やB767に使われているCF6シリーズのようなミッドスパン・シュラウド(突起物)は無いが、A350のTrent XWBのような現在主流のワイドコードでもない。
Newタイプなのか、それとも旧式なのか。
今回はこの少し変わったエンジンについて紹介します。
※ファンブレードの突起物の名称は、専門書によってミッドスパン・シュラウドやスナバ―など複数の表現があります。
正面から見たCFM56-2(軍用:F108)
CFM56-2(F108)エンジンについて
このエンジンを製造しているCFMインターナショナル社は、1974年にアメリカ GE社とフランス スネクマ社が設立した合弁企業。
(CFMI:コマーシャル・ファン・モーター・インターナショナル社の略)
DC-8やB707などの第一世代と呼ばれるジェット機の騒音が問題視された1980年代、その換装エンジンとして低燃費・低騒音な推力10トンクラスの新型エンジンが必要とされ開発がスタート。
設立から8年が経過した1982年、シリーズ初となるCFM56-2型がデルタ航空のDC-8 Super70にて運用を開始。
その後、低燃費性能やメンテナンスの良さが認められ、アメリカ空軍 AWACS E-3 セントリー(早期警戒管制機)
やKC-135R ストラトタンカー(空中給油機)の換装エンジンとして採用された。
エンジン型式:民間タイプはCFM56-2シリーズ、軍用機はF108-CF-100
・CFM56は、この-2型だけでも十分成功したエンジンといえるが、ボーイングB737やエアバスA320といった民間機にも採用されたことで、生産数22,000台以上(2011年時点)のベストセラーエンジンとなった。
ミッドスパン・シュラウドとは
・B767やA320ceoといった旧タイプの飛行機のエンジンのファンを観察すると、根元から2/3くらいの位置に突起物があります。
この突起によって隣同士のブレードと支え合うことで、フラッター(簡単に言えばバタバタとブレードが振動する現象)を防止します。
猛烈なスピードで回転するファンにとって、ブレードの振動は金属疲労を早めたり破断する危険性があります。
A320ceoに搭載のCFM56-5Bエンジン:ブレード同士を支え合う突起状のシュラウドが一つのリングを形成している。
例えば、あるエンジンでは離陸出力時、ブレード先端の周速度がマッハ1.4(スナバー付近の周速度はM0.8~1.0程の遷音速)になります。
このような高速回転するファンに、鈍頭の突起物を配置することは数%程の空力損失を招くといわれています。
ミッドスパン・シュラウドによる空力的損失をなくし、翼型を最適化することで効率を上げ、騒音も抑える。また、ブレード枚数を削減することで整備コストが下がるなど多くの利点を有するのが、今では一般的なワイドコード ファンブレードです。
現在主流の翼面に突起物のないフラットなワイドコード・ファンブレード
CFM56-2(F108)は最新型なのか?
・現在主流のワイドコード・ファンの特徴は、翼面に突起(中間シュラウド)がないフラットで、ブレードの枚数が18~24枚程度と少ないのが特徴。
一方、CFM56-2(F108)のファンを観察すると、中間位置に突起はないが昔ながらの細長形状でブレード枚数は44枚と世代的にはJT9Dに近い印象。
このような細長でフラッター対策は大丈夫なのか?
その答えは先端にあります。
ブレードの先端部を詳しく観察するとシュラウドが配置されており、お互いのブレードを支え合う形状となっています。
・このような構造のメリットは、翼表面に従来の突起物がないことで空力的損失が少なく、ブレード先端の空気の漏洩も抑えることが可能となるので、従来のミッドスパン・シュラウドタイプのエンジンよりも空力面では高性能です。
しかし、欠点もあります。
それは、ファンブレードの根元には大きな遠心力がかかるということ。例えば、CF6など通常タイプのファンブレード(1枚:6.4㎏)では離陸時に60トン程度の遠心力が根元に作用します。
1枚につき60トンの遠心力が作用するファンブレード。それが38枚取り付けられるディスクは強大な力に耐える必要から重く頑丈な構造となっている。
強大な遠心力が作用するファンブレード、ディスクの荷重負担を減らすにはブレードの軽量化も必要。
このような通常形式のファンでも過酷な根元部分。
その先端に重いシュラウドを配置することは、ブレードの根元にはさらに大きな遠心力が作用するため、それを取り付けるディスクも頑丈にしなければならず結果的に重量増しとなります。
この方式は、十分メリットはあるがデメリットも大きいため採用するエンジンはほとんどありませんでした。
また、現在では軽量なCFRP製ワイドコード・ファンブレードや、中空構造のチタン合金ファンが主流となっていることもあり、1970年代に設計されたCFM56-2のような先端シュラウド付き・チタン合金製ファンブレードのエンジンは世界的に見ても稀なレアエンジンといえそうです。
KC-135R(CFM56-2換装型):エンジンナセルには軍用機特有のタービンラインがある
先端シュラウドは低圧タービンによく使われている・燃費や性能に直結するタービン部分は、先端シュラウドを設けることで燃焼ガスの漏洩を最小限に抑え効率を上げることができる。
タービン動翼は枚数が多いため重量増しの影響も大きいが、メリットも十分大きいことから多くのエンジンメーカーでは低圧タービンに先端シュラウドを採用しています。
高圧タービンは、回転数が高く遠心力も大きくなるため頑丈にしなければならず重量の面で不利なことから先端シュラウドを設けないエンジンが多い。
しかし、RR製のエンジンは高圧タービン(HPT)にも先端シュラウドを採用しています。
低圧タービンに多く採用される先端シュラウド。ファンの先端に採用するエンジンはF108以外ほとんどみない。