日本のエアラインにはない機種として密やかな人気のB757
・B727の後継機として開発されたB757は、ナローボディー(単通路)の細身の体にハイパワーエンジンを搭載。総重量に対して高く設定されたパワーレシオは、空飛ぶスポーツカーと称された。
1982年に開発されたB757は、総生産数が1,000機を超えるほどの人気機種だったが、日本国内で採用しているエアラインがなかったことで「稀少機種」「珍鳥」という存在。
B747のパワープラントJT9Dの技術を受け継ぎながらも、3次元空力設計の圧縮機、単結晶タービン、民間機初のFADEC搭載など、推力18トンクラスでは当時世界で最も燃費効率の良いエンジンとされたPW2037エンジン。
その性能の要となった高圧1段目 タービンブレード(HPT1)を紹介します。
Boeing_757-225_Farnborough_1982_Fitzgerald.jpg: Steve Fitzgeraldderivative work: Altair78 (GFDL 1.2 または GFDL 1.2),
PW2037 高圧タービンブレード 1段目
BOEING 757-200
Pratt and Whitney PW2037
High Pressure Turbine Blade Stg1 (HPT1)
- エンジン型式:P&W PW2037
- 開発年:1983年
- 材質:ニッケル基耐熱超合金 PWA1480
- 結晶構造:単結晶(SC材)
- 冷却方式:コンベクション+インピンジメント+フィルム
- 搭載機種:ボーイング B757-200
・P&Wは、JT8DとJT9Dの推力の隙間を埋めるため、JT10Dとして1971年から開発に着手。そのJT10DをPW2000に命名変更し1981年に初運転を行った。後に、推力40,000ポンドクラスの民間機エンジン(PW2037)として、B757-200に採用された。
PW2037(推力37,000 lbf)エンジンは、当時最新の単結晶材による高圧タービンや3次元空力設計による圧縮機、燃料制御にFADECを搭載するなど、推力40,000ポンド級では世界で最も燃費の良いエンジンとされていた。特に燃費改善に大きく関与したのが、高圧タービンに採用された最新のニッケル基耐熱合金(単結晶材)
PWA1480と呼ばれるSC材は、この時代ではまだJT9D-7Rシリーズや軍用機エンジンなど一部の型式だけに使用されていた。
従来のDS材よりも耐熱性の高いSC材を使う事のメリットは、燃焼ガスの温度を上げることは勿論、それに伴うブレード冷却に必要な圧縮空気は逆に減らすことが可能となる。さらにブレード寿命も延びるというメリットがある。(欠点としては非常に高価で、エンジンにもよるがHPT1枚あたり 60~200万円ともいわれている)
PW2037の最大出力時の燃焼ガスの温度は約1,370℃前後と、当時の大型エンジンRB211(約1,250℃)、CF6-50(約1,300℃)と比較しても大幅に耐熱性がアップしている。そのことが、燃費改善の要因の一つとなっている。
この記事で紹介のHPTブレードは最初期に近いバージョンで、フィルム冷却孔は最低限というシンプルな構造となっている。(現在のPW2000シリーズには使われていません)
タービンブレードの画像
B747-300やB767に採用されたJT9D-7Rシリーズの技術を継承しつつも、ブレードを大型化することで部品数を削減、最新材料によるブレード寿命延長、冷却空気を抑えることにより燃料費や運航経費を大幅に削減できたとされている。
・離陸時には最高温度 1,370℃前後に達する燃焼ガスに晒されるタービンブレード。翼表面には耐熱コーティングが施されていた。(現在のPW2000シリーズは、セラミック・コーティングも追加されている)
※このブレードは、スクラップ処理が施されており表面コーティング等は除去されています。本来のブレードとは微妙に異なる色となっています。
・JT9D-7Qの記事でも紹介したが、高圧1段目タービンブレードの全体形状は-7Qの時代にほぼ完成形に近い物となった。PW4000・PW2000・V2500など数多くのエンジンがこの形状をベースとしている。
もちろん、材質や鋳造時の結晶構造・コーティング技術・フィルム冷却孔などは大幅に進化しているが、数十年先まで使用できる派生型エンジンまで見越して設計されている。
参考画像:JT9D-7Q 高圧タービンブレード 1段目