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航空機のエンジントラブル 硫化腐食はなぜ起こるのか?

航空機のエンジントラブルは忘れたころにやってくる。

離陸直後から30分以内に起こるエンジントラブルの中で時々発生する『タービンブレードの硫化腐食による破断』という事例はなぜ起こるのか。

エンジン故障といっても、センサー不良からオイル漏れ・バードストライクなど様々あるが、今回はトラブルの中でも重大な【タービンブレード破断】について紹介します。

最近の事例だと、B787 ロールスロイス Trent 1000エンジンの中圧タービンで発生した硫化腐食が原因とされるタービン破断があります。

タービンブレードの役目とは

・ジェットエンジンの心臓部でもあるタービンブレードに関しては、これまで何度か別の記事で説明しているので、ここでは簡単に紹介します。

タービンブレードと呼ばれる部品の役目は、燃料を燃やした高温ガスのエネルギーを圧縮機やファンを駆動する回転エネルギーに変換する風車のような部品です。

その中でも、最も過酷な環境で作動するのが高圧タービン(High-Pressure-turbine)と呼ばれる部品です。↓

半世紀前のエンジンは、燃焼ガスの温度は800℃~1100℃前後でしたが、現在はより低燃費で高効率を達成させるために最大出力時のガス温度は1300℃~1600℃にまで達します。

このような高温環境でもタービンが融けずに動作するよう、ブレード内部を空洞(トンネル状)にして空冷しています。

 

硫化腐食とは何か

・タービンブレードを空冷するための冷却空気は、エンジンが大気から取り込み圧縮した燃焼前の空気を利用しています。

そこで問題となるのが多くの空港が海に面していること

そのような環境の大気にはナトリウム成分も多く、微量ながら硫黄も含まれた空気がそのままエンジン内へと吸い込まれ圧縮されます。

硫化腐食と深く関わっているのが硫黄

圧縮され高温・高圧となった空気がタービンブレード内部を冷却する。その空気に極微量でも硫黄成分が含まれていると金属硫化物を生成させ硫化腐食の原因になるとされています。

内部が適切にコーティングされたタービンブレードなら、保護膜によって母材まで達することはありませんが、このコーティングに問題がありいったん硫化腐食が発生すると、硫黄の供給がなくてもそのまま腐食が進行するという恐さがあります。

腐食によって剥がれた酸化物がブレード内部の冷却通路を詰まらせると、冷却空気の流れが阻害されブレードの耐熱温度を超えてしまい破断する。

離陸時や上昇中に多く発生する硫化腐食によるタービン破断は、このような原因で起こるのではないかと考えられます。

また、硫化腐食が即ブレード破断というわけではなく、長年の蓄積なので新品ではなく2~3年経過した辺りで発生するのではないかという見解もあります。

 

硫化腐食が関わった過去のエンジントラブル

・日本国内でも過去に何度か発生した硫化腐食が関わっていると考えられているエンジントラブルを紹介します。

  • 2005年
    ANA B777に搭載されていたPW4000エンジンの高圧2段目のタービンで発生した硫化腐食によるブレード破断。
  • 2009年
    スカイマーク B767-300ERに搭載されていたCF6-80C2エンジンの高圧2段目タービンの破断。
  • 2016年
    ANA B787 RR Trent1000エンジンの中圧タービンで発生したブレード破断。

高温腐食には2つのタイプがある

・高温環境で発生する硫化腐食には2つのタイプがあります。

タイプ1:840~1010℃付近の温度で発生する高温腐食で、腐食する速度は温度に依存。硫黄の量には関係ないとされる腐食。

 

タイプ2:590~840℃付近で発生する高温腐食で、これは温度と硫黄量で腐食速度が早まる

重大インシデントの報告書によると、スカイマークの事例はタイプ2が影響した可能性があるとされています。

Trent 1000の場合は、高圧側(燃焼室出口1段目)のタービンブレードではなく、中圧側タービン(ガス温度は高圧段より低い)という発生場所は注目すべき箇所。温度的にタイプ1の可能性がある興味深い事例です。

さいごに

・今回の内容は『エンジントラブルがなぜ起きるのか』についてインシデント報告書などを調べてまとめた個人的な感想記事です。

特定のエアラインや機種、掲載画像と内容は一切関係ありません。

 

※この記事は、コレクターチャンネル【タービンブレードの硫化腐食について調べてみた】の記事を加筆・修正し当サイトで再掲載したものです。

参考にした資料

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