エアバス A320 / A321の一部に搭載されているブーストアップ・ボタン(スラストバンプ)について紹介します。
また、B777-300ER(GE90-115B)・B737-700(CFM56-7B26)の一部には、スラストバンプ定格が設定されている機材もあります。
もくじ
A320/A321:Thrust Bump
Bmurphy380, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
・標高や気温の高い地域にある空港から離陸する場合、満席でかつ燃料もタップリという最大離陸重量に近い状態だと、定格出力では離陸できない場合がある。
その場合は貨物や乗客を減らすという方法や、昔のB747-100ならエンジンに水噴射をして出力を上げるという原始的な方法もあった。
しかし、現代のターボファン・エンジンは性能的に余力があることから、一時的に燃料スケジュールを変更し定格を上回る出力を出せるエンジンがある。
A320/A321 ”Thrust Bump” スイッチ
一部のエアバス A320/A321には、スロットルレバーの根元に赤い隠しスイッチがある。これを押すことで燃料流量を増やし、定格出力より約10%(実際は6~8%程度という話もある)の推力を増大ができる。
しかし ”スラストバンプ” を頻繁に使用すると、コアエンジン(高圧タービンなどのホットセクション)が著しくダメージを受ける可能性があり、エンジンの取り外し間隔が早まる恐れがあるとされている。
CFM56-5Bの場合、”スラストバンプ”の使用には回数制限があり、その都度メンテナンスコンピューターに履歴が残るといわれている。
“Go baby, go” button installed on today’s A321. pic.twitter.com/9eoAzLr1gR
— Brad (@aaCaptainBrad) December 9, 2020
A320/A321 スラスバンプ対応機材
Arpingstone, Public domain, via Wikimedia Commons
CFM56-5B エンジン機
・CFM56-5Bエンジンには36種類のタイプがあり、その中の6タイプが ”Thrust Bump” に対応している。
- CFM56-5B3/P1(A321)
- CFM56-5B3/2P1(A321)
- CFM56-5B3/3B1(A321)
- CFM56-5B4/P1(A320)
- CFM56-5B4/2P1(A320)
- CFM56-5B4/3B1(A320)
・A320-214(CFM56-5B4/P1、/2P1、/3B1搭載機のみ)
・A321-211(CFM56-5B3/P1、/2P1、/3B1搭載機のみ)
V2500 エンジン機
・初期のA320-231(V2500-A1)にはスラストバンプ機能があった。
-A5以降のモデルは該当する型式がわかり次第、追記する予定です。
”BUMP”仕様機を運航するエアライン
Griz13, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
・フロンティア航空 A321、南米やネパールなど標高の高い地域で運用するエアライン。
B777-200LR / -300ER(GE90-110B/-115B)
Konstantin von Wedelstaedt (GFDL 1.2, GFDL 1.2 or GFDL 1.2), via Wikimedia Commons
・2007年2月、ボーイングはGE90-110B/-115Bに「スラストバンプ定格」を設定したエンジンの飛行テストを実施。
燃料制御コンピューター(FADEC3)に取り付けるエンジンデータプラグを変更することで、新しい燃料スケジュールによる燃料噴射によって定格出力を引き上げるという内容。
運用上、低高度で高温の空港(高度3,000 ft以下で気温32℃を超える地域)から離陸する際に、ハード面を変更することなくソフト的に燃料を増加させて一時的に推力を 2.5%高くする。
ソフトの変更によるスラストバンプは、手軽に推力増強ができる反面、コアの寿命が著しく低下する恐れがあるため多用はできない。
また、全てのエアラインが対象ではなく、エアインディアやエミレーツ航空が潜在的な顧客とされている。
B737NG(CFM56-7B26)
Doug Knuth from Woodstock, IL, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
・B737NGシリーズに搭載されている CFM56-7Bエンジンも”/”以降の付帯文字でスラストバンプの有無を識別できる。
DrukAirの737-700には、ノーマル仕様のCFM56-7B26ではなく-7B26/B2が搭載されている。このエンジンは、ブータン パロ国際空港の標高において定格よりも2%の推力増大が可能。
標準仕様 CFM56-7B26(推力 26,300 lbf)、2%の推力増大(+526 lbf)は少ないようにも感じるが、標高の高いパロ空港においては約2,100ポンド(953 kg)の貨物または人を追加できるためその効果は大きい。
↓は別のエアラインだが、スラストバンプを設定するとCDUの画面に ”27K BUMP N1”と表示され、ファン(N1)回転数は 102.6%になっている。
"27K BUMP" thrust, packs off takeoff out of @SjoAirport this morning. #LatinTerrain #CostaRica pic.twitter.com/ZBpRi9eN8G
— Brad (@aaCaptainBrad) April 6, 2017
・CFM56-7Bエンジンには53種類のタイプがあり、その中の3タイプが ”Thrust Bump” に対応している。
- CFM56-7B26/B2
- CFM56-7B26E/B2
- CFM56-7B26E/B2F
・BOEINGやAIRBUS機の ”スラストバンプ機能”のある型式がわかり次第、内容を更新する予定です。