「精密な機械には、感情が存在している。」そう断言するのは、本書の中で登場する航空機関士 多嶋の言葉だ。
在来型ジャンボ機の航空機関士が書いた、迫真のノンフィクション・ノベル。
この日がラストフライトとなるキャプテンの「ニューヨーク JFK発ー成田行き」でアクシデントが発生。航空機関士の目線でその対応を追う。
【目次】
ラストフライト
・1990年5月2日、ニューヨークJFK発 成田行きが現役で飛ぶ最後のフライト。この日の機体は、B747-200B JA8162号機。出発の前に念入りに点検を進める。
タイヤバースト
・JFKを離陸後、巡航中にカンパニー無線から呼び出し。「JFKの滑走路13Rが閉鎖されました。理由は、タイヤの破片らしきものが散乱しているため」「そちらの機体に何か異常はありませんか…」
【本の内容】
コックピットをテーマにしたノンフィクション作品は、キャプテンの目線で操縦が中心の場合が多い。しかし、本書は航空機関士の目線(メカニカル重視)で書かれているのが特徴。
操縦テクニックではなく、エンジンの特性・油圧・電気・燃料系統など、様々な専門用語が飛び交う。一刻一秒を争う判断が求められる飛行中のコックピット。
「数あるJT9Dシリーズでも、最終型のJT9D-7R4G2は効率を高めるために研ぎ澄まされた繊細なエンジンだった主人公の多嶋は言う」
最大推力 24.8トン、従来型の-7Qと比べて推力は3.2%、燃費は6%向上し、成田ーNY間も直航可能なエンジンだが、エンジンスタート後は2分間以上アイドリングが必要など制限も数多くあることを含めて繊細と表現されている。
本文に戻ると、和やかな操縦室でアクシデントが起これば、瞬時に「どうする?」の判断が求められる。
その判断には、正しい根拠があるのか。そのスイッチ操作によって機体はどうなるのか。その対応がダメなら次はどうするのか?常に先の先まで、論理的かつ正確な答えが求められる。
現代の旅客機は、航空機関士の役目をコンピューターが取って代わり、機長と副操縦士だけの2人乗務機がほとんどとなった。
アナログとデジタルが融合していたクラシック・ジャンボ機。メカ好きなら読み応えのある本としておススメする。
航空資料館