ボーイング 777-300ER GE90-115Bエンジン、777-200LR/-200LRF GE90-110B1の概要とスペックについて紹介します。
GE90-115B の概要
GE90-115B_Farnborough_2004.JPG: Sovxxderivative work: Zeugma fr, CC BY-SA 3.0,
・開発当時、GE90-115Bは航空史上最も大きな推力(試験時 127,888 lbf、運用時 115,540 lbf)を発生するエンジンとしてギネス記録にも認定された。
長距離型のB777-300ER用に開発されたGE90-115Bは、これまでのGE90-76B~-94Bシリーズとは名称は同じだが全く違ったコンセプトで設計されており、共通部品は20%程度とされている。
GE90-115Bシリーズには、推力を減格した-110B1(777-200LR / -200LRF)もラインナップされている。
※GE90の世界記録は、GE9Xが2017年11月の試験時に推力 134.300 lbfに達し記録を塗り替えた。また、ファン径も134インチ(-115Bは128インチ)となりGE9Xが記録を更新。
GE90-115Bシリーズ モデル
・GE90-115B(777-300ER)
※2001年1月 EASA認証
・GE90-110B1(777-200LR/-200LRF)
※2002年5月 EASA認証
ファン(FAN)
Dale Coleman (GFDL 1.2 または GFDL 1.2),
・ワイドコード・スウェプト・ファンブレード
・ファン直径 128 in(3.25m)
・ブレード枚数:22枚
・材質:CFRP( IM7/8551 )
金属色に見える前縁はチタン合金の補強材で、他にも先端・後縁の外周にチタン合金板の補強材が貼り付けられている。
前シリーズの-85~-94よりもファン速度を10%増速
バイパス比:7.1 [-115B]
最大出力時 、ブレードチップ速度は443m/sに達し、1秒間に1,641 Kgの空気(25mプール 2.4杯分)を一度に吸い込む
・GE90-115Bのファンブレードは、従来の-94Bと比較して-長さが2.5インチ(約63㎜)・翼幅 3.5インチ(約90㎜)大型化した。
また、全体の重量は-94Bよりも 6.03 kg 増しとなっている。
左:B737-400 (CFM56-3C1) 中:B747-200B (CF6-50E2) 右:B777-200ER (GE90-94B)
- ブレード全長
20.9 ㎝【-94B】、127.2 ㎝【-115B】 - 最大翼幅
48.5 ㎝【-94B】、57.4 ㎝【-115B】 - 重量(ファンブレード 1枚)
15.15 kg【-94B】、21.18 kg【-115B】
低圧圧縮機(LPC)
・軸流式圧縮機(4段)
コアエンジンへ流入する空気流量を増やすために、低圧圧縮機(LPC)の段数が3段( -94B)から4段(-115B)に変更された。
また、高圧圧縮機(HPC)の段数は10段(-94B)から9段へと一段減らされた。
LPCの段数を増やす目的の一つに、低圧タービンの駆動力を確保するという理由がある。
エンジンコアに入る空気流量が増えると、燃焼ガスの温度を従来型(-94B)と同程度(もしくは若干高い程度)にしても、増えた分の燃焼ガスによって低圧タービンの駆動力を上げることが可能となる。
また、ガス温度が低いことで低圧タービン動翼の寿命が延びるというメリットも同時に得られる。
巨大なファンを駆動するには他にも様々な方法があるが、GE90-115Bの場合はコア流入空気量を増やすことでそれを達成した。
高圧圧縮機(HPC)
・軸流式圧縮機(9段)
・3次元空力設計よる高効率翼型
・可変インレットガイドベーン
・可変静翼(高圧1段~3段)
・動翼1段目はブリスク
・全体圧力比 42(最大回転時)
・コア空気流入量増加に伴い高圧圧縮機は1段減らされた。
(-94までは10段、-115Bは9段)
燃焼室
・基本設計は-94Bと同じ
・デュアル アニュラ型(DAC)燃焼器
・低NOx・低公害型
・30本の燃料ノズル
・最大出力時 1秒間に約 3.9リットルの燃料を噴射。
高圧タービン(HPT)
・高圧タービンは2段構成
・従来型(-94B)よりも駆動力が必要な高圧圧縮機に対応した新設計のタービン動翼
・3次元空力設計翼
・単結晶(N5またはN6)
・セラミック遮熱コーティング
・腹側全面にフィルム冷却孔(円孔+シェイプトフィルム孔)
公式情報ではないが 最大出力時のTETは 1,482℃という情報がある。文献によっては 1,500℃以上という記載もあるが、高圧系の寿命を考慮するなら 1,482℃という数値の方が現実的。
低圧タービン(LPT)
・6段構成
・低ソリディティ翼(低回転高トルク型)
・従来型( -94)よりもブレードを大型化
・1段目動翼は、中空空冷構造の単結晶(N5)
・燃焼ガスの流路勾配は34°
・ファンを駆動するドライブシャフトは、強大な力を伝達できる -115B専用に開発されたミッド・シャフト(GE1014合金・IHI)
燃料制御
・FADECⅢ(ヘルスモニタリング、マネージメント機能が追加)
GE90-115B スラストバンプ (Thrust BUMP)
Konstantin von Wedelstaedt (GFDL 1.2, GFDL 1.2 or GFDL 1.2), via Wikimedia Commons
・2007年2月、GE90-110B/-115Bの燃料制御に新しい機能「スラストバンプ」が追加され飛行テストが実施された。
スラストバンプは、燃料制御コンピューター(FADEC Ⅲ)に取り付けるエンジンデータプラグを変更することで機能が追加される。
燃料スケジュールが変更されることで、一時的に定格出力を引き上げることが可能となる。
運用上、低地にある高温の空港(高度 3,000 ft以下、気温 32℃を超える地域)から離陸する際に、ハード面を変更することなくソフト的に燃料を増加させることで推力が 2.5%上がる。
スラストバンプは、ソフトの変更だけで手軽に推力増強ができる反面、コアエンジンの寿命が著しく低下する恐れがあるため多用はできない。
また、全てのエアラインが対象ではなく、エアインディアやエミレーツ航空などが潜在的な顧客とされている。
アクセサリー
・ギアボックスには、エンジン用の各種ポンプ、スターター、機体側(発電機、油圧ポンプ)が装着されている。
高圧軸と接続、全補器類の駆動には約700馬力(522 kW)必要。
- 機体用発電機(IDG:120 KVA)駆動に181馬力
- 機体用油圧ポンプ 63馬力
- バックアップ発電機(20KVA)43馬力
競合エンジン
ー
GE90-115B / -110B1 スペック
General Electric(GE Aviation) | |
型式 | GE90-115B / -110B1 |
搭載機種 | [-115B] Boeing 777-300ER [-110B1] Boeing 777-200LR/LRF |
形式 | 二軸式 ターボファン・エンジン |
構成 | 1-4-9-2-6 (Fan-LPC-HPC-HPT-LPT) |
離陸推力 | |
最大推力 | [-115B] 115,540 lbf(52,455 kgf) [-110B1] 110,760 lbf(50,285 kgf) |
バイパス比 | 7.1 |
ファン圧力比(FPR) | ー |
全体圧力比(OPR) | 42 |
ファン空気流入量 | 3,618 lb/s (1,641 kg/s) |
コア空気流入量 | ー |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
ー |
巡航推力 | |
巡航推力 | ー |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
0.55 (35,000ft M0.84) ※目安とされている数値、公式情報ではない |
回転数(最大出力時) | |
低圧軸(LP) | 2,602 rpm (110.5%) ※2,355 rpm (100.0%) |
高圧軸(HP) | 11,292 rpm (121.0%) ※9,332 rpm (100.0%) |
EGT | 1,090℃ ガス温度はLPT手前での測定値 |
ファン | |
ファン直径 | 3.25 m(128 in) |
ファン枚数 | 22 枚 |
形状 | フォワード・スウェプト型 |
材質 | CFRP(炭素繊維複合材) 補強材:チタン合金(前縁・先端・後縁) |
圧縮機 | |
ファン | 1段 |
低圧軸 | 4段 |
高圧軸 | 9段 |
燃焼室 | |
燃焼器タイプ | デュアル アニュラ型 |
燃料ノズル | 30本 |
燃料制御 | FADECⅢ |
タービン | |
高圧段 | 2段 |
低圧段 | 6段 |
サイズ | |
型式 | GE90-115B/-110B1 |
全長 | 7.29 m |
ファン直径 | 3.25 m(128.0 in) |
重量 | 19,315 lb |
推力重量比 | [-115B] 5.98 |
運用開始 | 2001年 |
※一部のデータはEASAから
・GE90の構造はCF6の派生型という印象もあるが、エアフロー図でコアエンジンを見ると CFM56と類似している点が数多くある。
例えば、高圧圧縮機(段数・翼型・流路勾配)、燃焼室(CFM56-5/-7で開発されたダブルアニュラ型の拡大版に近い形状)、低圧タービン(動翼形状・流路勾配)など、エンジン断面図だけで見比べても CFM56に近い形状ということがわかる。
また材質こそ違うが、ファン動翼の形状などファンセクションにも共通部分がある。
高圧タービン部に関しては、CF6-80C2/-80E1をベースにした改良型となっている。2段構成、単結晶材(N5)、三次元設計翼、ディスクへの取り付け方法などがある。