ボーイング777X型機 GE9X エンジンに搭載された ハイブリット・ファンブレードとは何か?
2025年の商業運航を目指し試験が進められている最新のB777X(777-8/-9)型機。
搭載されるGE9Xエンジンは、2016年に初運転、2018年 飛行試験、2020年9月に型式証明と順調に進んでいる。
従来のGE90の性能を大幅に超える性能(燃料消費率・CO2排出量ともに-10%)を達成するために、GE9Xには様々な新技術が投入されている。
その一つが「ハイブリッド・ファン」と呼ばれる新しいファンブレード。
Dan Nevill from Seattle, WA, United States, CC BY 2.0, (トップ画像にて使用)
ハイブリッド・ファンが考案された理由
Dan Nevill from Seattle, WA, United States, CC BY 2.0,
GE9Xのファン直径は 134in(3.40m)と、これまで世界最大とされた GE90-115B(777-300ER用)の直径より6インチ(約15㎝)も大型化された。
大型のエンジンになるほどファンの設計難易度は上がり、わずか 1インチ(2.5㎝)大きくなるだけでも大幅な設計変更が必要とされる。
また、ファン動翼の枚数も22枚(GE90)から16枚(GE9X)に削減するために、大幅なワイドコード化が必要となった。
- ファン直径:128in(3.25m)→134in(3.40m)
- ファン動翼枚数:22枚→16枚
- 従来型以上のワイドコード化に伴う異物突入に対する耐性
これらの条件を達成するためには、従来とは違う新しいアプローチが必要となった。
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下の画像は、従来型(GE90-94B)のCFRP製ファンブレード。
鳥衝突や雹などの異物突入に対して基材のCFRP(黒色部分)を保護するために、チタン製のカバーが3箇所(前縁・翼先端・後縁)に取り付けられている。
(翼先端と後縁は黒で塗装されている)
カーボンファイバー(CFRP)は軽くて強い材質ではあるが、非常に硬く、金属より柔軟性がないという欠点もある。
異物突入によってブレードに衝撃が加わった場合、表面には特にヘコミなど大きな損傷は見られないが、その力はブレード内部に直接伝わりカーボン材が層間剝離を起こすという問題がある。
B777-200ER(GE90-94B):バードストライクによりカーボン材が層間剝離したファンブレード前縁部
後縁は前縁よりもダメージが大きい(前縁・翼先端・後縁付近は、チタン板とCFRPのサンドイッチ構造)
GE9Xはブレード全長が長く、従来よりワイドコードとなったことでその影響はさらに大きくなる。
ブレード全体をCFRPにすると、異物突入時に後縁が大きく損傷するという問題があった。
高い強度も必要だが、金属のような衝撃吸収に優れた柔軟性も必要。そこで考案されたのが、後縁部分だけを特殊な構造用ガラス繊維複合材(GFRP)で作るというアイディア。
カーボン繊維のCFRP(基材)とガラス繊維のGFRP(後縁部分)を組み合わせるという全く新しい発想の「ハイブリッド・ファンブレード」が誕生した。
Dan Nevill from Seattle, WA, United States, CC BY 2.0,
また、従来(GE90・GEnx)は 前縁・翼先端・後縁にチタン合金製のカバーを使っていたが、GE9Xは特殊なスチール(一部ではインコネル系合金ともいわれているが材質は不明)に置き換えられた。
これによって、ブレードは全体的に薄く成形できパフォーマンスの向上と軽量化を同時に実現した。
このような全く新しい発想によるファンブレードによって、GE9Xは世界最大の大きさで最もパワフルな旅客機用エンジンとなった。
※GE9Xは、試験中にGE90-115Bのギネス記録(127,888 lbf)を大幅に上回る推力 134,000 lbfを発生し、ファン直径と最大推力のギネス記録を塗り替えた。