・エアバス A320/A321に搭載されているIAE V2500エンジン。
CFM56とライバル関係にある1988年生まれのV2500は、最先端技術がふんだんに使われている驚くべきエンジン。
150席クラス用のこのエンジンには、ワイドコードファンブレード・単結晶タービン翼など2020年現在でも同クラスの最新エンジンと互角に戦えるほどの性能を有している。
開発当時、エンジン技術はB747を超えていたという話もあるほど高性能。
IAE V2500 高圧タービンブレード 1段目
AIRBUS A320 / A321
IAE V2500
High Pressure Turbine Blade Stg1 (HPT1)
◆スワイプもしくはドラッグで画像を自由に回転できます。
- エンジン型式:IAE V2500
- 開発年:1988年
- 材質:ニッケル基耐熱超合金 PWA1480
- 結晶構造:単結晶(SC材)
- 冷却方式:コンベクション+インピンジメント+フィルム
- 搭載機種:エアバス A320/A321、ダグラスMD-90
- 備考:国際合弁事業として日本を含む5か国(P&W,RR,MTU,JAEC,FIAT)が共同で設立したインターナショナル・エアロ・エンジンズ(IAE)。燃焼器と高圧タービンの開発を担当したP&Wは革新的な技術を惜しみなく投入した。タービン鋳造にはPW4000大型エンジンや軍用エンジンで使い始めた【単結晶技術】を早々に導入。B777のエンジンで使用されている【シェイプトフィルム冷却】や【翼表面セラミックコート:TBC】も既に導入。当時、耐熱温度1,300℃級が標準とされていた時代に1,400℃を越える性能を有していた。この数値は燃費効率に直結する。
CFM56 vs V2500エアバスA320の燃費比較に興味があるかたはこの記事も参考になります。
飛行機の燃費・エアバス A320が1分間に使う燃料は?なぜエンジンは2タイプあるの?IAE V2500 タービンブレードに秘められた凄さとは
・革新的な性能を身にまとい登場したV2500エンジン、現在でも通用する燃費性能を達成する技術がこの高圧第1段目のタービンブレードには組み込まれていた。
3D空力設計の独特なフォルムが醸し出す性能は、耐熱温度や空力・冷却効率など全てにおいて当時のライバル エンジンとは圧倒的な差があった。
この1988年製の長さ8㎝・重さ130グラムの小さな超高性能タービンブレード。B777が就航する頃になってようやく時代が追い付いてきた。
・ブレード表面は、耐腐食・耐酸化に有効なNiCoCrAlYなどのメタルコーティングに、セラミックのサーマルバリア(TBC)コーティングが施されている。
これらのコーティング技術と単結晶鋳造によって、B747でも1,300℃級といわれていた時代に、最高温度1400℃でも運転可能な高性能エンジンとなった。
※画像のブレードは鏡面研磨された観賞用オブジェ加工品の為、表面コーティングはありません。
・翼全体を空気のカーテンで熱から保護するフィルム冷却も、単純な円孔ではなく、【GE90-115B HPT1】でも紹介した高効率なシェイプトフィルム冷却孔が採用されている。
大型機用ではない150席クラスの旅客機にこのような高度な技術が投入されたことは、コアのホットセクションを担当したP&Wがどれだけ本気でこのエンジン開発をしていたのかが伝わってくる。
・日本でA320/A321のエンジンといえばCFM56-5と言われるほど定着し、IAE V2500エンジンは控えめな存在だが、世界的には有名なエンジンで7,600基以上も生産されている。
突起物のない中空チタン合金製ワイドコードファン、単結晶タービン翼、3D翼型など、現在では標準の技術が1988年から既に開発され実機投入されていた。
時代がようやく追い付いてきた。
そんな表現ができるほどV2500エンジンの先進性は高い。
LCCが普及した現在、興味のある方はぜひ両者のエンジンを乗り比べてその違いを楽しんでみてください。
GE90-115Bとの違いを比較シェイプトフィルム冷却孔を装備したGE90-115Bのタービンブレード。V2500と比較したい方は参考になります。
B777-300ERの高圧タービンブレード|GE90-115B エンジン
参考にした本ジェット&ガスタービンエンジン その技術と変遷(飛行機の本 #60) The SUPERALLOYS:タービン翼 単結晶の本【飛行機の本 #47】 ジェットエンジンの仕組み:吉中 司 著【飛行機の本 #13】