「最新鋭機はエンジン1基で6時間(北海道~沖縄の距離以上)飛行できる」
現在は、エンジンが2つの双発機が主流になっています。もし、飛行中に何らかの不具合でエンジンが1基故障してしまったらどうなるのか。
乗客の立場としては、エンジンは正常に運転しているのが当たり前で、それが止まるという事は緊急事態です。しかし、ETOPSというルールに認定されている旅客機は、エンジン1基でもかなりの時間飛行が可能です。
この記事では、この4つについて紹介します。
- ETOPSとは何か
- これから乗る飛行機はETOPS何分?(機材リスト)
- 重要なシステムは2重3重系統
- パニックになる前に機内を見まわそう
もくじ
ETOPSとは何か
・ETOPS(イートップス)とは「Extended range Twin engine Operational Performance Standards」の頭文字をとったもので、日本語だと「双発機による長距離進出飛行」(国土交通省)と呼ばれるルールです。
・大雑把にいうと、緊急時にエンジン1基で飛行可能な時間を定めたもの
ETOPSが誕生した背景には、双発機の60分ルールというのが関係している。
古き時代の双発機は、エンジンの信頼性が低く万が一故障等で片発の飛行となった場合、60分以内に安全に緊急着陸しなければならないという規定があった。
しかし、現在の双発旅客機は、エンジンの信頼性・機体システム・空港要件(緊急着陸に適した空港)・エアラインの運航実績や整備能力など全てが向上したことで、エンジン1基が故障しても安全に飛行できる距離が長くなった。
エアラインからの要望や時代に合わせ規制が緩和されるようになり、1985年 ボーイング767が世界で初めて「ETOPS120」の認定を受けた。これにより、最大120分(2時間)以内に最寄りの空港に緊急着陸できればよいとされ、少しずつ洋上飛行が必要な航空路線にも進出し始めた。
さらに、エンジンやシステムが向上したことで、180分・207分・330分・370分に対応した機体も開発された。
※ETOPSの認定には、エンジンと機体の組み合わせによる型式による認定のほか、認可にはエアラインの訓練体制や整備体制など様々な条件がある。また飛行機1機ごとに個別で認可を受ける必要から、ETOPS認定機と未認定機が混在するエアラインもある。
これから乗る飛行機はETOPS何分?(機材リスト)
・双発機の信頼性が高いことはわかっても、これから自分が乗る飛行機はETOPS 何分に対応しているのか気になるもの。どの飛行機が何分に認定されているのかまとめました。
ETOPS-180(3時間)
BOEING 737-700/-800(NGシリーズ)
参考画像:BOEING 737-800(国内線で多く使用されている機材で、JAL・JTA・ANA・スカイマーク・ソラシドエアなどが運航)
BOEING 757
Rolf Wallner (GFDL 1.2 または GFDL 1.2), ウィキメディア・コモンズ経由で
BOEING 767
参考画像:BOEING 767-300ER(日本ではJALやANAの国内線・近距離国際線で運航)
BOEING 777
参考画像:BOEING 777-200
AIRBUS A320
参考画像:AIRBUS A320
ETOPS-207(3時間27分)
BOEING 787 RRエンジン搭載機 (2018年時点)
参考画像:BOEING 787-8(RRエンジン機は一時的にETOPS 207になっている。2018年時点)
ETOPS-240(4時間)
AIRBUS A330
参考画像:AIRBUS A330-300
ETOPS-330(5時間30分)
BOEING 777-300ER/-200LR/貨物機
参考画像:BOEING 777-300ER
BOEING 777-200ER(GEエンジン搭載機)
参考画像:BOEING 777-200ER(GEエンジン搭載機)
BOEING 787
参考画像:BOEING 787(GEエンジン搭載機)
ETOPS-370(6時間10分)
AIRBUS A350-900
参考画像:AIRBUS A350-900
※参考画像は、どのような飛行機なのか形状を判別するためのもので、特定のエアラインを示すものではありません。
ETOPSの認定を受けるには様々な条件があり、機体だけでなくルート上の空港支援要件やエアラインの方針によって、ETOPS-330対応機であっても-207や-180で届け出をする場合もあります。
ETOPSの数値が、機体の性能や信頼性を評価しているわけではありません。
重要なシステムは2重3重系統
・双発機だけではなく4発機・3発機なども含めて、飛行に必要な重要なシステムは必ず2重3重(一部は4重)の装備となっています。
例えば、BOEING 767の飛行に必要な電気を例にとると、それぞれのエンジンには発電機が1台(計2台)、APU(補助動力装置)に1台の合計3台あり、飛行に必要な電力は1台の発電機で十分賄うことができます。
しかし、その3台も全てダメになった場合に備え、RAT(Ram air turbine)と呼ばれる小さな風力発電装置が胴体内に収納されており、緊急時に展開することができます。それもダメな時は、バッテリーによって最低限の計器と無線装置を動作させることができます。
また、一部の洋上飛行など長距離用のB767には、油圧で発電機を駆動できるHMG(Hydro motor generator)をメインギア格納庫付近に装備している機種もあります。
旅客機はこのように、様々なシステム(操縦系統・自動操縦・電気・油圧・ニューマティック・空調など)が多重装備となっています。
飛行中にトラブル発生!まずは冷静に機内を見まわそう
・飛行中に突然エンジンが火を噴いた・停止した・爆発音がしたなど、ありえない状況になった時、乗客としてはどうしていいのかパニックになるかもしれません。
もちろん、パイロットやCAさんの指示に従うことが基本中の基本。それ以上は何もありませんが、多くの人が感情を声に出さないだけで、恐怖を感じる人や命の危機を感じる人も場合によってはいるかもしれません。
みんながみんな冷静なわけではありません。
もしも!の時、自分の目でチェックできることを4つ紹介します。
(無暗に席を立つことは危険です。座った状態で神経を研ぎ澄ませてみましょう)
①:エンジンから爆発音・火を噴いた!
・機内の照明は変わらず点灯していますか?
照明やその他の電気機器が通常通り動作しているなら、もう一つのエンジンは問題なく運転していることがほとんどです。
旅客機は1基のエンジンでも十分安全に飛行が可能です。
②:酸素マスクが落ちてきた
・空調関係に問題があると全ての酸素マスクが自動的に下りてきます。周囲を見渡し自分の席以外にも全てマスクが下りているなら直ちに着用しましょう。
(酸素マスクは、10秒以内の装着が好ましいとされています。低酸素症になると意識を失います。)
普段、安全ビデオをしっかり見ない人へのアドバイス
酸素マスクは強く引くことで、酸素発生装置のピンが抜け化学反応が始まり酸素が供給されます。
急いでマスクを着用してもピンが抜けていないと酸素は発生しません。平常時はそれくらい普通のことに感じますが、現実にこうなるとパニックになって普段できることができなくなります。
酸素マスクは口元まで強く引きましょう。
③:全てのエンジンが止まった
・飛行機は全てのエンジンが停止しても石のように落ちるわけではありません。
現代の旅客機は、高性能な翼によってグライダーのようにしばらく滑空することができます。
その距離は、巡航高度からなら約15分から20分程、距離にして200㎞~250㎞とされています。その間にエンジンの再始動や、最寄りの空港に緊急着陸するといった手順がとられます。また、どうしようもない場合には海上着水の可能性もあります。
④:機内火災は緊急度MAX
・正常に飛行しているが、電気機器の焼ける臭いがする。煙が充満している。
実は、エンジンが1基故障するよりも怖いのが機内火災。
機内はかなり乾燥しており、火はすぐに燃え広がります。シートやカーペットには難燃性の素材が使用されていますが、燃えた時の煙は有毒という調査も一部であります。
客室内やトイレなど見える場所での火災なら、早急に正しく対応すれば消火は可能。問題は電気室や貨物室の火災。不具合を調べている間にも煙が充満します。過去にもコックピット内が煙で視界不良となり墜落した事故例もあるほど。
機内火災は、一刻も早く緊急着陸が必要とされるレベルMAXのトラブルです。
さいごに:飛行機はエンジン1基でも問題なく飛べます
・飛んでしまうと上空では部品交換できない飛行機。重要なシステムは必ず2重3重となっています。
また、それはエンジンも同じ。
飛行中に壊れることがないよう信頼度は高めているが、使用していれば壊れることだってある。機械に絶対はない。そのイザ!に備えて、双発機は1基でも問題なく飛行できる大推力のエンジンが搭載されている。
乗客としては、先ほどの目で確認する以外はなにもできない。せいぜい、懸命に対応している乗務員の妨げにならないよう、怒らず・騒がず・黙って信じる以外にはない。
「シートベルトを腰の低い位置で、いつもより強く締め外でも眺めましょう」
ちなみに、過去に火山灰でエンジン4基が全て停止したジャンボ機の緊急着陸がありました。驚くべきことに異常発生から着陸後の脱出まで、すっと眠っていてわからなかった人もいるそうです。そういう神経の図太い人が羨ましくなったりします。