エアバス A320neo / A321neo / A319neo(New Engine Option:ネオ)に搭載されているPW1100G-JMエンジンの概要とスペックについて紹介します。
PW1100G-JMの概要
・超高バイパスエンジン(GTF:ギヤードファン)として、2010年に開発がスタートした PW1000Gシリーズ。
従来のA320ceo型機に搭載されていたエンジンの換装用として、燃費を15~20%削減・環境性能・騒音・運用コストを大幅に下げることを目的に新設計された。
P&W社では、GTFエンジンの研究を1993年から進めており、試験エンジンとしては推力 50,000 lbfの発生まで成功していた。
PW1000Gシリーズは、ビジネスジェット用のPW308・PW800のコアを改良。
従来のターボファンは、ファンの大型化に伴い低圧タービンの回転も下げる必要があり効率の低下は避けられなかったが、GTFの場合は低圧タービンを高速で回転させることが可能となり効率が改善した。
大口径になるほど低速回転にする必要がある前面の大型ファンは、ギアを介すことで最も損失の少ない回転数で運転が可能となった。
これまでGTFエンジンといえば、推力 5,000 lbfクラス(ビジネスジェット等)が主流だったが、PW1100Gシリーズは、その6倍となる推力 30,000 lbfクラスの商用運行に成功した初のエンジンとなった。
従来の同クラスと比較して、燃費を -20%(CFM56-7)~-15%(V2500)の削減に成功。
燃費を1%削減するだけで、運航コストは単純に1億円近く下がる場合もあるといわれている。
PW1100G-JM シリーズ モデル
・PW1133G-JM(33,110 lbf)
※2014年12月 FAA認証
・PW1133GA-JM(33,110 lbf)
・PW1130G-JM(30,000 lbf)
・PW1127G-JM(27,075 lbf)
・PW1127GA-JM(27,075 lbf)
・PW1127G1-JM(27,075 lbf)
・PW1124G-JM(24,240 lbf)
・PW1124G1-JM(24,240 lbf)
・PW1122G-JM(22,000 lbf)
※2015年10月 FAA認証
・PW1129G-JM(29,000 lbf)
※2018年5月 FAA認証
【PW1100G-JM 搭載モデル】
tjdarmstadt, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- A319-171n:PW1124G-JM
- A319-172n:PW1122G-JM
- A319-173n:PW1127G1-JM(高温高地型)
- A320-271n:PW1127G-JM
- A320-271n:PW1127GA-JM(Alternative climb thrust)
- A320-271n:PW1129G-JM(高温高地型)
- A320-272n:PW1124G-JM(推力減格型)
- A321-271n:PW1133G-JM
- A321-271n:PW1133GA-JM(Alternative climb thrust)
- A321-272n:PW1130G-JM(推力減格型)
ファン(FAN)
・ファン直径 81.0 in(2.06 m)
ブレード枚数 18枚
従来の大型ターボファン・エンジンには、チタン合金やカーボン素材(CFRP)が使われていたが、PW1000Gシリーズでは、軽量化のために高強度アルミ合金(アルコア製 7000系列またはAl-Li合金)が初めて採用された。
ブレードの前縁には、異物突入に対しての保護材としてチタン合金のカバーが貼り付けられていることから、一部では「ハイブリット金属ファン」「アルミ・ファンブレード」と呼ばれている。
また、空力性能を従来のワイドコード・ファンよりも高めるために、異なる4つのカーブを組み合わせた複雑なフォワード・スウェプト形状となっている。
・ファンケースも軽量化のためカーボンファイバー製となっている。
ギア(Gear)
・スター型 遊星歯車装置(減速比 3.0625) 川崎重工製
GTF(ギヤード・ファン)は、低圧タービンの回転力をギアを介してファンに伝達している。そのため、低圧圧縮機および低圧タービンは効率の良い高回転で動作し、大型のファンは低回転で運転させることが可能。
約30,000馬力(22,000 kw)を伝達するギアボックスは、オイル交換以外のメンテナンスはフリーで25,000サイクルの飛行が可能とされている。
低圧圧縮機(LPC)
・軸流式圧縮機(3段)
3次元空力設計による高速翼型の採用
高回転で運転が可能となった低圧圧縮機は、従来型のエンジンを例にとると JT8DのN1(低圧段)に近い回転数で動作している。
理想的な状態で運転できるLPCは、効率よく圧縮できることから必要な段数が少なく直径も小さくなった。(ファンの回転数はギアで約1/3に減速される)
また、ほとんどのFOD(異物)を排出できるFODフリー設計の採用により、LPC内に流入した異物を遠心力によって分離させ流路から排出させる機構がある。
高圧圧縮機(HPC)
・軸流式圧縮機(8段)
3次元設計や空力解析による効率的な翼型、20,000 rpmを超えるコアの高回転化によってわずか8段で圧力比40を超える高い圧縮が可能となった。
従来型のV2500エンジンと比較すると、段数は10段から8段、回転数は5,000 rpm以上も高くなっている。
最大出力時の全体圧力比は40~50
燃焼室
・アニュラ型(TALON-X 希薄燃焼器)
NOxなどの有害な排出ガスを大幅に削減し、どのフェーズでも効率的で安定な燃焼が可能な燃焼室形状・燃料ノズルが開発された。
TALON-Xは、PW4000系列で使用されているTALON燃焼室の改良型。
燃焼室内壁は交換可能なフロートウォール構造。新しい内部コーティングが採用されている。
高圧タービン(HPT)
・高圧タービンは2段構成
3次元空力設計による効率的な翼型
HPT動翼の材質は、第五世代戦闘用エンジンと同等に近いものが採用された。
最新の素材、進化した遮熱コーティング、改良された翼内クーリングによって、従来型よりも高いガス温度での動作が可能となり同時にブレード寿命も向上した。
低圧タービン(LPT)
・3段構成、タービンケース・アクティブ・クリアランスコントロール
競合するLEAP-1A(低圧タービン 7段)に対して、わずか3段で大型のファンを駆動できるPW1000Gシリーズは、大幅な軽量化とメンテナンスコストの削減を同時に達成した。
燃料制御
・FADEC
アクセサリー
・ギアボックスは高圧軸と接続。エンジン本体用の各種ポンプ、スターター、機体側(発電機、油圧ポンプ)が装着されている。
競合エンジン
PW1100G-JM seriesスペック
Pratt & Whitney | |
型式 | PW1100G-JM series |
搭載機種 | Airbus A320neo series |
形式 | ギヤード・ターボファンエンジン(GTF) |
構成 | 1-G-3-8-2-3 (Fan-Gear-LPC-HPC-HPT-LPT) |
離陸推力 | |
最大推力 | [PW1124G-JM] 24,240 lbf(11,004 kgf) [PW1127G-JM] 27,075 lbf(12,292 kgf) [PW1133G-JM] 33,110 lbf(15,031 kgf) |
バイパス比 | 12 |
ファン圧力比(FPR) | – |
全体圧力比(OPR) | 42~50 |
ファン空気流入量 | lb/s ( kg/s) |
コア空気流入量 | ー |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
ー |
巡航推力 | |
巡航推力 | ー lbf |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
ー |
回転数 | |
ファン(NFAN) | [MAX] 3,280 rpm [FLT IDLE] 1,801 rpm [GND IDLE] 1,750 rpm |
Gear ratio | 1 : 3.0625 |
低圧軸(N1) | [MAX] 10,047 rpm [FLT IDLE] 5,515 rpm [GND IDLE] 5,359 rpm |
高圧軸(N2) | [MAX] 22,300 rpm [FLT IDLE] 12,400 rpm [GND IDLE] 12,400 rpm |
EGT | [ITT:Indicated turbine temp]
1,083 ℃ |
ファン | |
ファン直径 | 2.06 m(81.0 in) |
ファン枚数 | 18 枚 |
形状 | フォワード・スウェプト型 ワイドコード ファンブレード |
材質 | アルコア製 高強度アルミ合金 (7000系列またはAl-Li合金) |
構造 | 前縁チタン合金貼付け |
圧縮機 | |
ファン | 1段 |
低圧軸 | 3段 |
高圧軸 | 8段 |
燃焼室 | |
燃焼器タイプ | アニュラ型(TALON-X 希薄燃焼器) |
セグメント・ウォールタイプ | |
燃料制御 | FADEC |
タービン | |
高圧段 | 2段 |
低圧段 | 3段 |
材質(Material) | |
ファン | 高強度アルミ合金 (前縁チタン合金カバー) |
低圧圧縮機(LPC) | ー |
高圧圧縮機(HPC) | ー |
燃焼室 | Nickel alloy |
高圧タービン(HPT) | Nickel alloy |
低圧タービン(LPT) | Nickel alloy |
サイズ | |
型式 | PW1100G-JM series |
全長 | 3.37 m |
ファン直径 | 2.06 m(81.0 in) |
重量 | 6,300 lb |
推力重量比 | [PW1133G-JM] 5.23 |
運用開始 | 2014年 |
※一部のデータはFAAから
※TSFCや材質は一般的に公開されている情報です。公開できない事項や調査中のものは[ー]で表記しています。