大型旅客機 BOEING 747の原動力として誕生したP&W JT9Dエンジン。その概要とスペックについて紹介します。
このシリーズは、747クラシック(-100~-300)だけでなくDC-10やA300/A310の原動力にもなっている。
Steve Fitzgerald (GFDL 1.2 または GFDL 1.2), 747クラシック:第5ポッドと呼ばれるエンジン輸送用の取り付け箇所
JT9Dシリーズの概要
アメリカ国立公文書記録管理局, Public domain
・JT9Dシリーズは、1960年代にアメリカ P&Wが開発した初の高バイパス比・大型ターボファン・エンジン。
このエンジンに要求された設計目標は、従来のB707やDC-8に搭載されていたJT3Dエンジンと比較して「推力は2.5倍」「燃費は30%減」という前代未聞の性能だった。
これが実現しなければ、巨大なB747は舞台に上がることができない。苦難の末に誕生したのが、推力19.7トンを発生する JT9D-3だった。
このエンジンによって営業運航は可能となったが、推力不足によって航続距離は 6,700 ㎞程と東京ーホノルル間の直行も天候に左右され、故障も多発した。
しばらくは、出力アップのために水噴射によって最大離陸推力を3.5%増強するシステムを搭載するなどの対策が取られたが、次第に材質や加工技術の発達によって水噴射なしで高推力を発生するタイプが誕生した。
最終型となる「JT9D-7Rシリーズ」は、研ぎ澄まされた精密機械と呼ばれるほど洗練されたエンジンとなり、東京-ヨーロッパ・ニューヨーク間もノンストップで就航が可能となった。
JT9Dシリーズ (軍用 F105-PW-100)
・JT9D-3A
B747-100:43,500 lbf (45,000 lbf 水噴射)
※1969年3月 FAA認証
・JT9D-7
B747-100:45,500 lbf (47,000 lbf 水噴射)
※1971年6月 FAA認証
・JT9D-7A
B747:46,150 lbf (47,670 lbf 水噴射)
※1972年9月 FAA認証
・JT9D-20
DC-10-10:44,500 lbf (47,500 lbf 水噴射)
※1972年10月 FAA認証
・JT9D-7H
B747:45,500 lbf (47,000 lbf 水噴射)
※1974年6月 FAA認証
・JT9D-7AH
B747:46,150 lbf (47,670 lbf 水噴射)
※1974年6月 FAA認証
・JT9D-7F
B747:46,750 lbf (48,650 lbf 水噴射)
※1974年9月 FAA認証
・JT9D-59A
DC-10-10,A300:51,720 lbf
※1974年12月 FAA認証
・JT9D-70A
B747:51,140 lbf
※1974年12月 FAA認証
・JT9D-7J
B747:48,650 lbf
※1976年8月 FAA認証
・JT9D-7Q
B747:51,900 lbf
※1978年10月 FAA認証
・JT9D-7Q3
B747:51,900 lbf
※1979年10月 FAA認証
・JT9D-7R4D
B767:48,000 lbf
※1980年11月 FAA認証
・JT9D-7R4D1
A310:48,000 lbf
※1981年4月 FAA認証
・JT9D-7R4E
B767:50,000 lbf
※1981年4月 FAA認証
・JT9D-7R4E1
A310:50,000 lbf
※1981年4月 FAA認証
・JT9D-7R4G2
B747-300:54,750 lbf
※1982年7月 FAA認証
・JT9D-7R4H1
A300-600R:56,000 lbf
※1982年7月 FAA認証
・JT9D-7R4E4
B767:50,000 lbf
※1985年3月 FAA認証
・JT9D-20J
DC-10-10:48,050 lbf
※1986年12月 FAA認証
ファン(FAN)
・ファン直径: 95.5 in(-7A)、 97.0 in(-7Q/59)、 96.9 in(-7R)
・ブレード枚数 44枚(-7A・-7Q/59シリーズ)、40枚(-7Rシリーズ)
・チタン合金製(Ti-6Al-4V)
・ミッドスパンシュラウド付ブレード
・BPR 5.15(-3/-7A)~4.8(-7R)
・ブレードアスペクト比 4.6(-7Rシリーズ 4.0)
・最大出力時(-7)のブレード先端(チップ)速度は476m/s
・1秒間に698 kgの空気を吸い込み、580㎏をファン推力として排気
低圧圧縮機(LPC)
・軸流式圧縮機 3段(-3/-7シリーズ)、4段(-7Q-59、-7Rシリーズ)
・コア流入空気量:118 ㎏/s
・材質:チタン合金
高圧圧縮機(HPC)
高圧圧縮機動翼 2段目~11段目(ファンから数えた場合は 6~15段目にあたる)
・軸流式圧縮機(11段)
※JT9のブレード段の数え方は、マニュアルだとファンが1段目~高圧最終段が15段目と連続でナンバリングされている。ここでは、他のエンジンと同じように高圧段のみを数えた 1~11段という表現をしています。
・可変式インレット・ガイドベーン
・可変静翼 1~3段、4~11は固定式静翼
・動翼材質:チタン合金(1~9段)、ニッケル基耐熱合金(10~11段)
最大出力時(8,000rpm)のコアフローは118 kg/s、全体圧力比は22.2~26.7に達する。
燃焼室
・アニュラ型燃焼器
・材質:
全フェーズで黒煙や煙を最小限に抑える改良が施された燃焼室
高圧タービン(HPT)
左から4枚目までが-7Aタイプ(-7シリーズ・-7R)共通の形状、右2枚が-7Qタイプ(-7Q/-59)と呼ばれている。
・高圧タービンは、形状が全く違う-7Aタイプと-7Qタイプの2種類がある。
-7Aタイプは、全116枚(高圧1段目)で構成されている。この形状は、-7A/-7J/-7Fシリーズ及び最終型の-7Rシリーズに採用。
-7Qタイプは、-59及び-7Qシリーズに使われている形状。
・材質は、Udimet700(JT9D-3)から始まりB1900、PWA1422(一方向凝固)、PWA1480(単結晶)と時代とともに改良されている。
・タービン入り口温度(TIT) 1,243℃、-7Rシリーズ 1,300℃
【JT9D-3/-3A 高圧1段目タービン翼 断面】
アメリカ国立公文書記録管理局, Public domain
高圧タービンノズル(NGV 1st Stage)
747-100B(JT9D-7A)高圧タービン・ノズルガイドベーン -7Aタイプ(第4世代) 材質はコバルト基(MAR-M509)
・-7Aタイプと呼ばれる画像のNGVは、4回の大きな改良が加えられている。材質や内部空冷の変更によって、使用時間は1,000時間から10,000時間まで耐久性が向上した。
低圧タービン(LPT)
・4段構成
・材質はインコネル系 ニッケル基耐熱超合金
・最大出力時の排気ガス温度は、低圧タービン出口で482~500℃(-7A/-7Q/-59A)、535℃~575℃(-7Rシリーズ)
燃料制御
・油圧機械式
アクセサリー
・ギアボックスには、エンジン用の各種ポンプ、スターター、機体側(発電機、油圧ポンプ)が装着されている。
競合エンジン
JT9D seriesスペック
SAS Scandinavian Airlines, Public domain,
Pratt & Whitney | |
型式 | JT9D series |
搭載機種 | 747 Classic、767、DC-10、A300/A310 |
形式 | 二軸式 ターボファン・エンジン |
構成 | 1-3-11-2-4 (-7A,7F,7Jシリーズ) 1-4-11-2-4 (-7Q/-59/-7R) 【Fan-LPC-HPC-HPT-LPT】 |
離陸推力 | |
最大推力 | [JT9D-3A] 43,500 lbf (B747-100) [-7A] 46,150 lbf (B747) [-59A] 51,720 lbf (DC-10-10,A300) [-7Q] 51,900 lbf (B747) [-7R4D] 48,000 lbf (B767) [-7R4G2] 54,750 lbf (B747-300) |
バイパス比 | 4.8~5.17 |
ファン圧力比(FPR) | 1.6 |
全体圧力比(OPR) | 21.1~26.7 |
ファン空気流入量 | 1,510 lb/s [-7A]
(698 kg/s) |
コア空気流入量 | 260 lb/s [-7 series] (118 kg/s) |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
– |
巡航推力 | |
巡航推力 | 10,200~12,250 lbf |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
0.620~0.631 |
回転数(最大) | JT9D |
低圧軸(LP) | 3,650 rpm [-3] 3,750 rpm [-7A] 3,430 rpm [-7Q] 3,530 rpm [-7R] |
高圧軸(HP) | 8,000 rpm [-7A/-7Q] 8,080 rpm [-7R] |
EGT | 915~985℃ LPT NGV1 |
ファン | |
ファン直径 | 95.5 in(-7A) 97.0 in(-7Q/59) 96.9 in(-7R) |
ファン枚数 | 44 枚 [-3/-7A/-7Q series] 40 枚 [-7R series] |
形状 | ミッドスパン・シュラウド付 ファンブレード |
材質 | チタン合金 |
圧縮機 | |
ファン | 1段 |
低圧軸 | 3段 [-3/-7A] 4段 [-7Q/-59/-7R] |
高圧軸 | 11段 |
燃焼室 | |
燃焼器タイプ | アニュラ型 |
燃料ノズル | ー本 |
燃料制御 | 油圧機械式 |
タービン | |
高圧段 | 2段 |
低圧段 | 4段 |
サイズ | |
型式 | JT9D-7A |
全長 | 3.25 m |
ファン直径 | 2.427 m (95.5 in) |
重量 | 4,014 kg (8,850 lb) |
推力重量比 | [-7A] 5.21 |
運用開始 | 1971年 |
※一部のデータはEASAから
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