1988年にエアバス A320ceo / A321ceo / A319ceo 用として開発されたV2500は、当時生まれる時代を間違えたと揶揄されるほどの高性能だった。
IAE V2500の概要
・IAE V2500 は、世界の主要エンジンメーカー5社が協力して1988年に開発した推力 30,000 lbfクラス(単通路 旅客機用)のエンジン。
メーカー各社の最新技術が惜しみなく投入されたV2500は、当時のボーイング747 クラシック型さえも超えるほどの画期的な技術を身に纏っていた。
一例をあげと、ワイドコードファンブレード・高圧力比の圧縮機・フロートウォール燃焼室・軍用機と同クラスの素材・単結晶タービン翼など多岐にわたる。
その後、後継機として登場した PW1000Gは、V2500より-15%低燃費となり2014年に登場したが、V2500はその性能の高さから 2022年現在でもまだまだ多くのA320/321ceoシリーズで活躍している。
IAE:インターナショナル・エアロ・エンジン
・IAE(インターナショナル・エアロ・エンジンズ)は国際合弁事業として日本を含む5か国(P&W,RR,MTU,JAEC,FIAT)が共同で設立。
性能や燃費の要となる燃焼器や高圧タービン部分はP&Wが担当。タービン動翼の鋳造には、PW4000や軍用エンジンで使い始めた単結晶技術が早々に導入された。また、B777のエンジンで使用されているシェイプトフィルム冷却や翼表面セラミックコートなどの新技術も惜しみなく投入された。
当時、大型ターボファン・エンジンのタービン動翼の耐熱温度は1,300℃級が標準とされていた時代に、V2500 エンジンは 1,400℃クラスの性能を有していた。この数値は燃費効率に直結する。
IAE V2500 シリーズ モデル
・V2500-A1(A320:24,800 lbf)
※1988年6月 FAA認証
・V2527-A5(A320:24,800 lbf)
・V2530-A5(A321:29,900 lbf)
・V2525-D5(MD-90:25,000 lbf)
・V2528-D5(MD-90:28,000 lbf)
※1992年11月 FAA認証
・V2527E-A5(推力増加型 A320:24,800 lbf)
※1995年8月 FAA認証
・V2522-A5(推力減格 A319:23,040 lbf)
・V2524-A5(推力減格 A319:24,480 lbf)
※1996年4月 FAA認証
・V2533-A5(A321:31,600 lbf)
※1996年8月 FAA認証
・V2527M-A5(A319:24,800 lbf)
※1999年5月 FAA認証
・V2531-E5(EMB-390:31,330 lbf)
※2014年7月 FAA認証
ファン(FAN)
ファン直径 63.5 in(1.61 m)
ブレード枚数 22枚
ワイドコード・ファンブレード
ファン効率の改善
サージマージンの拡大
騒音低減
スナバ―後流に起因する圧力損失や流路面積減少に対する改善
・1980年代当時のファンブレードといえは、細長形状でブレードの振動を防止する突起(スナバ―)が付いているのが主流だったが、V2500にはスナバ―を除去した新しいファンブレードが装備された。
欠点としては従来の細長ブレードよりも重量が増えること。ワイドコード・ファンは、フラッター(振動)を防ぐために翼幅を1.5倍ほど長くする必要があるため、1枚当たり重量が増加することから軽量化が必要。
その重量増しを抑えるために採用されたのが、ブレード内部を中空にする方法。RRが世界で初めて開発に成功し B757(RB211-535E4)に搭載した、拡散接合によるチタン合金製中空ファンブレードの製造技術がV2500にも使われた。
低圧圧縮機(LPC)
・軸流式圧縮機(4段)
初期型の V2500-A1は3段だったが、-A5及び-D5はコアフローを増加するために4段のLPCとなった。
高圧圧縮機(HPC)
・軸流式圧縮機(10段)、1~4段は可変静翼
コントロールド・ディフュージョン翼
後段は翼先端をさらにねじるエンドベンド翼となっている。翼先端のケース内壁に近い部分を、本の端を少し折るような形状にすることで性能が向上。エンドベンド翼を用いると効率が1%、失速特性が6%改善されるといわれている。
最大出力時の全体圧力比は36
圧縮機の高負荷化と低損失を同時に実現するために、翼面の速度分布を最適化した翼型。効率低下を起こさずに、回転速度を25%増速(比較:JT9D)することが可能。また、一般的な動翼と比べて前縁が厚いため異物突入にも強い。
燃焼室
・アニュラ型(内側分割セグメント型燃焼器)
NOxなどの有害な排出ガスを大幅に削減し、どのフェーズでも効率的で安定な燃焼が可能な燃焼室形状・燃料ノズルが開発された。
燃焼室内壁は交換可能なボルト止めウォール構造。
内面セラミックコーティング
高圧タービン(HPT)
・高圧タービンは2段構成
3次元設計による効率的な翼型
単結晶合金 PWA1480、2007年のセレクトワン以降は耐熱性の高い新素材に変更された。
高圧タービン・ケーシングのアクティブ・クリアランスコントロールによって燃費が1%改善。
従来は低圧タービンケースに用いられていたアクティブ・クリアランス(ケーシング冷却)。
タービン動翼先端とケーシングの隙間を最小限にし燃焼ガスの漏洩を抑える技術。必要に応じてケースの外周から冷却空気を吹き付けて制御する。
低圧タービン(LPT)
・5段構成
高圧タービンと同様の3次元設計による効率的な翼型
タービンケース・アクティブ・クリアランスコントロール
燃料制御
・FADEC
アクセサリー
・ギアボックスは高圧軸と接続。エンジン本体用の各種ポンプ、スターター、機体側(発電機、油圧ポンプ)が装着されている。
機体に電力を供給する発電機(IDG)の駆動には175馬力必要。
競合エンジン
V2500 seriesスペック
Morio, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
Internatinal Aero Engines | |
型式 | V2500 series |
搭載機種 | A319ceo/A320ceo/A321ceo EMB-390、MD-90 |
形式 | 二軸式 ターボファン・エンジン |
構成 | 1-4-10-2-5 1-3-10-2-5 [-A1のみ] (Fan-LPC-HPC-HPT-LPT) |
離陸推力 | |
最大推力 | [V2500-A1] 24,800 lbf(11,259 kgf) [V2527E-A5] 24,800 lbf(11,259 kgf) [V2533-A5] 31,600 lbf(14,346 kgf) [V2531-E5 31,330 lbf(14,223 kgf) |
バイパス比 | [-A5] 4.6 |
ファン圧力比(FPR) | [-A5] 1.7 |
全体圧力比(OPR) | 31.6~36 |
ファン空気流入量 | [-A5]
858 lb/s (389 kg/s) |
コア空気流入量 | ー |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
ー |
巡航推力 | |
巡航推力 | 5,752 lbf |
TSFC 燃料消費率 (lb/hr/lbf) |
0.575 M 0.8 35,000ft |
回転数 | |
低圧軸(N1) | [-A1] 5,495 rpm (100%) [-A5] 5,650 rpm (100%) |
高圧軸(N2) | [-A1] 14,915 rpm (100%) [-A5] 14,950 rpm (100%) |
EGT | 650 ℃ |
ファン | |
ファン直径 | 1.61 m(63.5 in) |
ファン枚数 | 22 枚 |
形状 | 中空ワイドコード ファンブレード |
材質 | チタン合金 |
構造 | チタン合金製 内部ハニカム+外板 サンドイッチ構造 |
圧縮機 | |
ファン | 1段 |
低圧軸 | 4段 [-A1 : 3段] |
高圧軸 | 10段 |
燃焼室 | |
燃焼器タイプ | アニュラ型 |
フロートウォールタイプ | |
燃料制御 | FADEC |
タービン | |
高圧段 | 2段 |
低圧段 | 5段 |
材質(Material) | |
ファン | チタン合金 |
低圧圧縮機(LPC) | チタン合金 |
高圧圧縮機(HPC) 動翼 | チタン合金・ニッケル合金 |
高圧圧縮機(HPC) 静翼 | Jethete(#1~#7),FV535(#8),N901(#9),INCO718(#10) |
燃焼室 | Hastelloy x |
高圧タービン(HPT) | PWA1480(HPT) |
低圧タービン(LPT) | Inco713 |
サイズ | |
型式 | V2500 series |
全長 | 3.20 m |
ファン直径 | 1.61 m(63.5 in) |
重量 | 5,200 lb |
推力重量比 | [V2533-A5] 6.07 |
運用開始 | 1988年 |
※一部のデータはFAAから
※TSFCや材質は一般的に公開されている情報です。公開できない事項や調査中のものは[ー]で表記しています。